こうのとりのゆりかご(最終報告書)

 熊本市の慈恵病院で行われている「こうのとりのゆりかご」について検証する有識者会議が蒲島熊本県知事に対して最終報告書を出したというニュースがありました。
 今までこの会議は二度ほど運用状況に関する中間報告を出していて、それは熊本市のサイトの「トップ>くらし・環境>子育て> 」の階層に、「平成20年度「こうのとりのゆりかご」の利用状況について 」「平成19年度「こうのとりのゆりかご」の利用状況について 」というように公開されています。(過去記事1過去記事2
 現時点で熊本市熊本県のサイトにこの最終報告書はアップされていませんが、いずれ近いうちにpdfファイルなどの形で公開されることが期待されます。詳しくはそれを見てからなのですが、今回の最終報告書についての報道では「倫理的劣化懸念」などといった表現が強調され、その存在自体を倫理問題として懸念する側面の報告であったような記述が…。


 最終報告書で正確にどう表現されていたかは確かめなければなりませんが、少なくともここの部分だけを強調して「こうのとりのゆりかご」を評価するのは的外れであると言わざるを得ません。
 倫理的に劣化する云々というのはゆりかごに子供などをつれてくる保護者に対して言われること。しかしこのゆりかごの存在意義は、つれてこられ置き去りにされる幼児・子供たちのためにあります。ゆりかごがあっても無くても遺棄され、もしかしたら生死の危機に陥るかもしれない子供たちがいると考えられて、そういう子供たちを救うための「こうのとりのゆりかご」なのですから保護者がどうのというのはあくまでも二義的な話でしかないのです。
 すべての人が善人になれば極端に犯罪行為は無くなるでしょう。でもその理想の状態に社会を変えることができないので、犯罪予防や法的処罰、補償や救済がシステムとして考えられているのです。精神棒で根性を注入しようが、軍隊的組織で鍛えあげようが、そんなものでオール善人の理想の社会なんてやって来ないというのは当たり前の話。「こうのとりのゆりかご」が無ければ子を捨てたり殺したりする保護者がいなくなるというなら別ですが、発想としては「子供救済」が主眼のこのゆりかごに対して親の倫理がどうこうという話は基本的に「ずれた」ものでしょう。


 親などの保護者が、一人残らず困難に耐えて子供を育てるという倫理的成長を遂げるのが(社会的コストの点からも)最も望ましいことは言うまでもありませんが、それを直接行うすべが無い時、どうしても犠牲になりがちな子供たちを一人でも多く助けようという試みは有意義なものだと私には思えます。
 さて、民主党は「子ども手当て」という形で子供を持っておくインセンティブを与えようとしていますが、それが施行された後、どれだけ「こうのとりのゆりかご」の使用人数が減るものか興味深く見続けようと思っています。


赤ちゃんポストで倫理観劣化懸念 検証報告書が指摘共同通信

 親が育てられない子どもを受け入れる慈恵病院(熊本市)の「赤ちゃんポストこうのとりのゆりかご)」に関し、運用実態を検証する熊本県などの有識者会議は26日、幼児や障害児の預け入れがあったことなどを受けて「社会的に『倫理観の劣化』を懸念せざるを得ない」と指摘する最終報告書を公表し、蒲島郁夫知事に提出した。

 報告書によると、4〜9月に9人の預け入れがあり、2007年5月のポスト設置後の合計は51人となった。幼児が2人、障害児は複数いた。身元が判明したのは39人で、うち7人は親元に戻った。

 預けた理由は「戸籍に入れたくない」8人、「生活困窮」7人、「不倫」5人、「未婚」3人。ほかに「養育拒否」や「親の反対」などがあり、不明は14人だった。(後略)

「倫理観劣化」を懸念 赤ちゃんポストで有識者会議が検証報告書MSN産経ニュース

(前略)
 報告書は、障害児らの預け入れを踏まえ「ポストの存在が、顔の見える相談を忌避させている」と批判。ただ、慈恵病院が妊娠・出産にまつわる相談を多く受けてきた実績も含め「トータルでは、多くの生命がつながった」と評価した。

赤ちゃんポスト、2年半で51人 「国の母子支援必要」asahi.com

(前略)
 最終報告によると、約2年5カ月間で、生後1カ月未満の新生児43人、生後1カ月以上〜1年未満の乳児6人、生後1年以上〜小学校入学前の幼児2人が預けられ、病院側が想定した「年に1人あるかないか」を大きく上回った。


 51人のうち、39人は親の居住地が判明しており、九州・沖縄13人、関東11人、中部6人、近畿4人など。熊本県内はゼロだった。母親の年齢は20代が21人、30代が10人、10代が5人、40代が3人。
(中略)
 預けられた子どもの多くは乳児院や里親の家庭で暮らすが、7人は実の親らが思い直して引き取った。親が不明なままの13人は、熊本市が戸籍を作り名前をつけたという。


 検証会議は、「都道府県を超えた広域的な問題。国の関与が望まれる」とし、母子を保護するシェルターを各都道府県に1カ所程度整備し、出産や子育てに関する相談体制を充実させることが必要と提言している。
(中略)
 26日に記者会見した柏女座長は「『ゆりかご』がなければもっと悲惨になっていただろうという事例から、(妊娠・出産を)なかったことにしたいという倫理観の崩壊した事例まであった。国民全体の問題として検討する必要がある」と述べた。(岡田将平)