韓国における反日

 親日派:子孫の財産4億6000万円没収を決定朝鮮日報日本語版)
 という話題が注目されていますが、なぜ韓国がこういうことをするのかということについて以前考えていたことを書いておきます*1


 韓国(朝鮮)が国民国家になってきたのは、日韓併合以降のことです。それ以前の前近代的身分制国家では「近代的国民」と呼べる存在がいなかったか、いてもごく少数でした。国民国家の萌芽的状態だったのです。また同様に、国民国家統合の一つのモチーフとなるべき「民族」はほとんど意識されていなかったのではないかと考えられます。


 日本による統治によって逆説的にも国民意識民族意識に目覚めてきた彼らには、すでにその段階から「併合されている」という状態がありました。その時に彼らが進むべき道は「そのまま日本人になってしまう」か「日本を排除して独立国となる」かの二つの選択肢としてありましたが、前者の道は日本の敗戦によって中断され、後者も(機運、実力ともに不足していたため)自力で行うことなく、連合軍による突然の「解放」がもたらされただけでした。


 ナショナリズムを育て自力解放に至ったのならばまだしも、唐突にアイデンティファイすべき自分たちの国というものを与えられた形になった彼らは、急場しのぎの自意識の形成しかできなかったのです。そしてその形は、「日本の否定(過去の自分の否定)による自国(韓国・朝鮮)意識の形成」だったと思われます。


 彼らの中の「日本人になりかけていた自己」はそこでは真っ先に否定されねばならないものでありました。そうしなければ新しい自分を作れないからです。この面が社会的に現れたのが「親日派の糾弾」です。北朝鮮ではこの試みは一応の成功をみましたが、韓国ではこれをその時点で徹底することが人材の枯渇につながってしまうため、やや曖昧にその中核に「かくれ親日派(昔の日本への協力者)」が残されることになりました。


 また彼らには「日本からの自立は自分たちが行った」という幻想もどうしても自我の形成に必要でした。それゆえ日本からの独立(光復節)は8月15日という日に象徴的に設けられ、実際に連合国からの独立させてもらった日(1948年8月13日)は隠蔽されてしまっています。自力による自立という幻想は(薄々そのうそ臭さに自分で気付いているだけに)どうしても補強したいことでもあります。金日成抗日パルチザン伝説が南でも青年の心を引いたのは(また「日本軍将校」であった朴大統領のへの若者の反抗心は)、こういうところに一つの淵源があるように思われるのです。


 さらに、過去の自分たちの日本との関係は「支配−抵抗」という図式である必要がありました。良くしてもらったとか日本人になりかけていたとかいう(相当数の人が心に抱いていたであろう)過去は、決して許されないものでした。そこに目を向けると、自分たちが日本に打ち勝って独立したという「偽りの自分史」が崩壊してしまうからです。それゆえ日本統治時代は暗黒の歴史として再描写され、三一独立運動などのもろもろの抵抗運動を過大に評価し、七奪などというフィクションが声高に語られました。


 そして、自分たちが国民意識民族意識に目覚めたことに「日本の影響」があったということは否定されなければなりませんでした。そこで持ち出されたのが檀君神話であり、半万年の民族史観という何の史料的裏づけもないスローガンであったのです。
 こういう経緯を抱えて「韓国・朝鮮人」になった(なっている)人々と歴史がらみの話をして「合意」が形成されるでしょうか? 私には大いに疑問です。彼らにとっては「日本の言い分を認める」ことがすなわちアイデンティティー・クライシスを迎えかねないことなのですから。


 今回の親日派財産の没収は、「過去の清算」・「歴史の清算」という看板を掲げてはいますが、あくまでも過去の(都合のいい)再構成による自意識の補強に過ぎないものではないかと私は思っています。

*1:05/11/02の記事を元にリライトしました