チャングムの誓いは「必殺」シリーズ、「将太の寿司」?

 いちいちフィクションに目くじら立てなくても…とは思います。結局その人が面白いと思えばそれでいいのですから。ただ「必殺仕事人」や「破れ傘刀舟」などを見て外国の人に殺伐とした江戸時代像を持ってもらわれては困るように、時代劇風味の現代劇(社会風刺とかカタルシスを得るとかいう目的のもの)で、歴史がわかったつもりになられるのもどうかなと思います。
 今日も夜11時からNHKで再放送される「宮廷女官」チャングムの誓いを、韓国の時代劇と思っていらっしゃる方が意外に多く、それはいかがなものかと前から思うところがありました。あれは韓国の「必殺仕事人」であり「おしん」であり「将太の寿司」なのです。


 以前に朝鮮日報日本語版で次の特集記事を見たことがありました。
脚本家が語る誕生秘話(1)

−ドラマで賎民の女医・長今が後には中宗から恋慕の情を抱かれるまでに発展しました。中宗実録に長今についての記録がどの程度残っているのでしょうか。


 「朝鮮王朝の実録から長今という言葉を検索すると中宗時代の長今と宣祖時代の70代になった長今の二人が出てきます。中宗実録に長今は10回登場しますが、主に賞を得た記録です。中宗が米何俵、豆何升を下賜したという内容です。どういう暮らしをしていたかについての記録はまったくありません。中宗28年に『大長今』という表現が出てきます。中宗39年に大臣らが「男性医官の治療を受けるように」と奏請しましたが、中宗が『私の病は女医が知る。だから君たちは心配せずに下がりなさい』と言います。その部分で長今が王の主治医になったことを知りました」

 つまり史書には名前とちょっとした受賞記録しか出ていない、そして王の主治医云々もこの脚本家の方の想像に過ぎない、そんな一女性をほとんどこの方が想像で「大河ドラマ」仕立てにしているんですね。
 立派な力量だとは思います。でもそれゆえチャングムは結局現代劇だろうとも感じます。
脚本家が語る誕生秘話(2)

▲『大長今』は100%脚本家の想像力
―長今が王の主治医だっただろうという感だけで、この長いストーリーを作り上げたのですか?


「はい。残りは100%、私の想像力です。実は許浚に関する記録もそれほど多くはありません。小説『東医宝鑑』のために許浚についての記録がとても多いと思われていますが、そうではありません。許浚は中人ですので、両班ではない人々の記録は実録には登場しないのです」


―歴史的事実に基づいてストーリーを組み立てるのは難しかったと思いますが、参考にした史料などがありましたか?


 「史料というもの自体が存在し得ません。2002年4月に李局長と初めてお会いしてから、しっかりした原作のあるドラマを手がけようと努めました。新人の脚本家が50回のドラマを原作なしで手がけるのは大きな冒険だからです。『商道』や『茶母』はすべて原作を脚色したものです。2002年11月に女医の話を扱うことを最終的に決めて、原作なしで4か月後に全50回のストーリーを完成させました」
 (大長今チャングムの誓い」朝鮮日報記事)

 日本の時代劇や大河ドラマでさえ結構考証がいい加減とはよく言われることですが、この脚本家の方がどれほど作家としての力量を持っておられるとしても、よく知らないことまでちゃんと書き込めるとは思えません。スケジュールもタイトだったそうですので、歴史的な細かいところまではあまり期待しない方がよさそうです。 逆に現代劇として見れば、異国情緒もあり、近代人的な葛藤、ラブロマンスもあり、それはそれで楽しめる方がいらっしゃるのも頷けるというものです。


 最近、このインタビューの続き(だろうと思われる)部分を目にすることがありました。そこで、ちょっとびっくりする情報が…
インタビューの続き

―「大長今」話の前半部は食べ物作る宮女たちに関することで,後半部は医女に関する.水刺間内人長今はどのように登場するようになったのですか.


『それも純然と私の想像の産物です.医女の話で直ちに入って行けば「許浚」と似ていると言うでしょう,これをどのようにするが悩みました.女医者と通じることができる部分が食べ物ではないかと思いました.補陽食という言葉もあって,食べ物と医術は一脈相通ずる部分があるんじゃないか.企画段階で私が「食べ物の話に行ってから,医女の話に行こう」と言いました.そのようになれば話がふたつに割れるんじゃないか.これはすごく危ないんです.私も「そのようにいって盛り上がるか」自信がなかったが,イ局長様が果敢に決断を下しました』


―前半部に宮女たちが料理を作って王様と王妃などに評価を受ける場面がたくさん出ますね.食べ物競演をさせようという考えはどのようにしたんですか.


『日本マンガ「寿司王」からヒントを得ました.料理に関するマンガは全部試合です.「これは面白いだろう」と思ったんです』


―宮廷で実際にそんな事が起った可能性がありましょうか.


『絶対にありえない事です(笑い).宮女たちの間には厳格な上命下逹(上意下逹)の位階がありました.尚宮たちが上位の大人たちも曲げて支配しようとする位だったんです.文定王后は継妃に入って来たでしょう.実録を見れば尚宮たちがとてもいばった態度をしたような感じが私にはがあります.文定王后だけがそうではなく,幼い王妃が入って来れば尚宮たちが一応頭を押さえて自分の言葉をよく聞くようにしようと思った部分もあります』

 ここで語られる日本マンガ「寿司王」というのが将太の寿司らしいんですね。別にそれは「美味しんぼ」でも「焼きたてジャぱん!」でも「ミスター味っこ」でも何でも良かったんだとは思いますが、これは巧みな換骨奪胎(というかパクリ)だったなあと感じます。

―宮女たちと宮廷食べ物に関する研究をたくさんしたんですか.


『あ,それはキム・ヨンスク教授が書いた「宮廷風俗研究」という本が助けになったんです.宮女たちの生活に対してとても詳しく出ています.宮廷食べ物を勉強しようと「宮廷食べ物大観」,漢方医学勉強のために「東医宝監」を何回も読みました.地名は「東国輿地勝覧」を探したし,インターネットから「硫黄鴨」のようなアイディアを捜し出したりしたんです』


―「大長今」に登場する人物たちが現代的な言語を駆使するのが目立ちますね.王や王族たちが古風である表現を書かないで,食べ物に関する表現も現代的で….意図的に現代的な言語をたくさん書いたんですか.


『私が宮廷生活,宮廷言語に精通することができないからです(笑い).私が宮中語を研究して文を書こうと思ったら,ストーリーを作るよりもっと大変だったでしょう.「水刺をゾシンダ」のような王にだけ書く表現が多いです.特定名詞を他の名前と呼んだこともかなり多くて.この前には砂糖を「ソルダン」と呼んで,小麦粉を「チンカル」と呼びました.そんな言葉が入って行けば新しく感じられて面白いという気がする部分だけ古風であるように使いました』

 というわけで、細かな時代考証はほとんどないといったところでしょうか。もちろん下敷きになる歴史研究が皆無ではないようですので、それなりに雰囲気は出ていると思います。

王が賎民と愛するとは奇抜な設定


―医女は宮廷内で尚宮や内人たちよりずっと地位が低い賎民なのに,中宗が賎民と恋慕の情を分けるという設定が本当に奇抜です.


『それは「医女長今がどのように王の主治医になって,大長今になっただろうか」想像してからそんな状況を設定しました.医女が王の主治医がなった,本当にすぐれた医術だけ持ってなるか?いくらそれでも時代が時代なので.王が長今を好きではなければそのようにまで入り込むことが易しくなかったはずだと思いました』


―王が長今を後宮にしないで,閔政浩に送るのが胸に切々ときますね.中宗が「後宮にしない.しかし男としてお前をそばに残したい」と言う部分は近頃ドラマに出るせりふみたいでした.


『そうです(笑い).多分そんな事はありえなかったんです.王が好きならばそのまま抱けば良いのですよ.気に入ればそのまますべて後宮にすれば良いからです』


―王と医女の愛という哀切な愛話のため視聴者たちが「大長今」がもっと好きになったんです.


『長今と中宗の愛をもっと長く描きたかったです.この部分をもうちょっと長く描かなければならないのに,企画段階からとても「感」が来た部分ですよ.大韓民国で最初の王と普通女人の愛の話を描きたかったんですよ』


―一番クライマックスになった部分なのにどうして長く書かなかったんですか.


『一応視聴者たちがあまり復讐を渇求するんですよ.チェ尚宮に対する復讐を….そうしてみるとその部分があまり増えました.医女長今部分を全体の60%くらいで描こうと思ったが,40%くらいに減りました』

 何かこう実も蓋もないというか…(笑)