ひょっこりひょうたん島

 私はわりに早く就寝するのですが、深夜のテレビ番組を何本かHDDレコで撮って、次の日に見るということもしています。むしろゴールデン・タイム、プライム・タイムの番組より面白いものも少なくないと感じています。
 その中にいわゆる深夜アニメというのもありまして、たとえば『蟲師』とか『ノエイン』などお気に入りの番組はDVDに焼いて保存しているぐらいです。番組改変期のあたりでは、とりあえず何本かの作品の第一話だけ撮ってみて、その中で期待できそうなものを視聴するということをしているのですが、今期は見続けようかどうしようか判断に悩む作品がありました。


 それはテレビ東京系の『よみがえる空 Rescue Wings』(公式サイト)です。これは、内田という若者が航空自衛隊航空救難団小松救難隊に配属されるところから始まる、自衛隊のレスキューを舞台とする作品でした。
 私は特に軍事関係のものや航空機に特別惹かれるという趣味はありませんし、原作のマンガも読んでいません。ただ「職業ドラマ」は昔から好きで、普段知ることの無い専門職を舞台にするものにはかなり興味があります。ということで今年の1月あたまからの放送を一応視聴していました。


 ただこの作品はとても静かに(悪く言えば地味に)ゆるやかな展開で進んでいまして、それだけリアルに近いとは思いましたが、内部の葛藤や事件もそれほど訴えかけるものでもないと思われました。一人の青年のレスキューでの成長物語にしてもいささか間延びした感があり、そろそろ録画をやめようかなと考えていたのです。


 でも先々週、先週と続いた「Bright Side of Life(前後編)」には意外にも心を動かされました。そして不覚にもちょっと涙(笑)。自衛隊機に一つの事故が起き、それに淡々と対処するだけのストーリーと言えばそうなのですが、劇中でてくる「ひょっこりひょうたん島」のメインテーマがすごく効果的で、ちょっとやられた感じです。


 第六話「Bright Side of Life(前編)」はいきなり葬式のシーンから始まり、自衛隊機事故で亡くなった隊員の出棺が行われます。そこで故人の遺志により暗く湿っぽい音楽ではなく、大好きなこの音楽で送ると紹介されたのが「ひょっこりひょうたん島」でした。そしてこの曲が流れる間に場面が進みクレジットが入って、オープニングテーマは無しという具合。この段階ではそれほど感慨もなかったのですが、これは伏線でした。
 亡くなった故人と内田三尉を指導する「鬼軍曹」役の本郷三佐には実は因縁があり(同乗機が墜落して一人生き残る。事故を契機に戦闘機乗りから救難隊に回される)、その事故と二重写しにしながら、自衛隊機の墜落>救難というストーリーが続いていったわけです。
 そして第七話「Bright Side of Life(後編)」ですが、主人公がすごく派手に活躍するわけでもなく、一名の死亡一名の救出というちょっとしたハイライトがあって、内田三尉がこの救難隊でやっていこうと静かに決意するというようにストーリーが続きました。演出は控えめでとても静かに淡々としたものでしたが、結構引き込まれていました。
 最後のシーン、隊の皆がカラオケに行き本郷三佐は「ひょっこりひょうたん島」を歌う…。この人がこの歌に込めている思いというものが地味に響いてきて、それだけでもちょっとうるうるしていたんです。

苦しいこともあるだろさ
悲しいこともあるだろさ
だけど ぼくらは くじけない
泣くのはいやだ わらちゃおう 進め〜

 でも意表を突かれたのがこのラストシーンの後です。いきなり通常のクレジットの上に、「チャッ。チャッ。チャラッチャラッチャ、チャラーララ〜♪」と「ひょっこりひょうたん島」が流されたのです*1。何で「ひょっこりひょうたん島」に泣かされるんだろうと思いながら、懐かしいその歌を聴いていました。
 これで視聴し続けること決定です。残りのエピソードの中にこれぐらいのものが一つでもあるなら、十分価値はあるだろうと思えたのです。


 初代「ひょっこりひょうたん島」はモノクロで始まり、昭和39年から5年間に渡ってNHKで人気を博した人形劇です。私もストーリーは少しだけ記憶があるくらいです(「ネコジャラ市の11人」なら結構憶えていますが)。
 ただ、この主題歌はきっちり思い出の中に組み込まれていました。「ひょうたん島」の原作を担当した井上ひさしと山本護久が作詞。どこかで、作詞に困り果てた井上ひさしが、最終打ち合わせのために東海道新幹線に乗って上京する際、車窓から太平洋を見ながらふと思いついたというエピソードも聞いたことがあります。

苦しいこともあるだろさ
悲しいこともあるだろさ
だけど ぼくらは くじけない
泣くのはいやだ わらちゃおう
進め ひょっこりひょうたん島
 (全歌詞はこちらのサイトに)


 そういえば、劇中曲としてこの「ひょっこりひょうたん島」は『おもひでぽろぽろ』とか『ナビィの恋』などの映画で使われていましたね。製作者の思い入れが通じるのか、なかなかいい作品に使われているような気がします。
 Rescue Wingsは名作とまでは言えませんが、なかなかの佳作として記憶に残るかもしれません。

*1:今朝になってふと思い出しました。ここでいきなり前奏ではなかったですね。ルールール…と女声コーラス(というかスキャット?)があったんでした。記憶違いでした