顔そのものがいやらしいと苦情を訴えるということ

 派遣社員ハラスメントを「ハケハラ」と称してみたらしいのですが、次の毎日新聞のコラムをご覧ください。
ハケハラ毎日新聞 2006年7月15日 東京朝刊)

 「A部長がセクハラ? ヨシ私が何とかしてあげるから具体的に話してくれる?」。Kさんは女性部長なので、他部の女性社員からもよく相談をうける。


 その日相談に来たBさんはいきなり泣き出した。「身体に触られたり、ヘンなことを言われたの?」。Bさんはかぶりを振る。「ヌードポスターなどが貼(は)ってある?」。それも違うらしい。「A部長がいやらしい顔で……」「胸をじっと見たり?」「ちーがーうーんです。顔そのものが、いやらしいんです」。Kさんは困った。「顔がいやらしいといわれてもね」。何とかしてあげられるものではない。(中略 強調は引用者)

 ここまで読んでちょっと絶句。
 そりゃあ個々人の好みというものがありますから、その人にとって顔つきがアレだなあと思う人も広い世の中には何人かいるでしょう。でもそれを「陰口」と思わずに、セクハラ相談に真面目に持ってくるなどというのは私の常識にはありません。時代が変わったで済ませることなどできませんね。まあこのコラム、ここから

 じっくり話してみると、根は深かった。A部長は派遣社員をやたら取り換える。「派遣は所詮(しょせん)使い捨て」が口癖だ。セクハラまがいのことを言って反論したら「取り換え」る。


 総務に相談したが、「派遣が条件に合わなければ取り換えるのは当然」と言われ万策尽きたBさんは多くの派遣社員の声なき声を代表してKさんを巻き込み「社員からのセクハラ相談」の形で逆襲を企てたというわけだ。
(後略)

 というように続けて、「派遣ならハラスメントして良いわけがない」という結論で「ハケハラ」につながるわけですが、最初のインパクトが強かったせいか、どうにもこちらで書かれる「根の深い事情」のほうが何だか記事の体を整えるための後付けの理屈に見えて仕方ありません。


 身体の障碍などその人がどうしようもないことで「からかう」だの「仲間はずれにする」だのということが下品な振る舞いであることは言うまでもありませんが、その人に正面きって不快を表すなどの行為も全く同様のことだと思います。
 いやらしい顔だと人のことを決め付けるのも、これに準じるように感じますね。ここでBさんに悪気が無さそうなのがさらに気持ちが悪いです。まったく無自覚なのでしょうか。それとも、立場の弱い者がそういうことを言うのは許されると思ってしまっているのでしょうか。もし彼女の周囲でそういう感想が主流だとしても、それを外部に出すことにためらいはないのでしょうか。(あえて好意的に解釈すれば、派遣社員に高圧的な態度を取るA部長の顔にその態度ゆえの卑しさがあったのだということも考えられなくはないのですが、どうもそういう文脈ではないように見えます)
 人の心のどろどろの中にあったとしても、これは表に出すべきではない、といいますか表に出しては恥ずかしい行為なんだと、ここでK部長はたしなめるべきだったと強く思います。「そんな常識もないなら、とんでもない逆襲が来るよ!」とはAさんに言って欲しい言葉ですね。