血液型が気質に影響するとは

 かつて血液(体液)が体内の「精気」を象徴するものとして捉えられていたから…というのがありそうな想像だと思います。吸血鬼が吸うのは血液というより精気なのであって、これは人を取って食らう鬼でも、肝を取る怪異でも、尻子玉を抜く河童でも同様の構造が見て取れるのではないでしょうか?(吸血鬼の考察はたとえば『永遠を生きる』の「吸血鬼はなぜ血を吸うのか」や『たまねぎ地獄』の「ヴァンパイア」などの記事が参考になります)


 さてその血液型なのですが、実はこれ血液に限定された区分ではないということをご存知でしょうか? もちろんご専門の方には何をいまさらではあろうと思いますが、免疫について素人なりに調べていた途中でこれを知り、ちょっとまとめてみたものがありますので書きとめておきます。


 ABO式の血液型とは通常赤血球の種類の分類と思われていますが、実はこれほぼ全身の細胞に発現している違いとして考えられるものでして、「全身型」と言ってもよいようなものです。これはそれぞれの細胞の表面に出ている糖鎖の構造の遺伝的な違いの分類なのです。
 糖鎖とは、グルコースガラクトースなどの単糖が分岐しつつ連なってできた高分子物質です。ほとんど全ての細胞はH型と呼ばれる糖鎖を持っているのですが、このH型の糖鎖の末端にN-アセチルガラクトサミンという糖が付くとA型、ガラクトースが付くとB型の構造になります。血液型A型の人の細胞表面には「A型糖鎖」があり、B型の人の細胞表面には「B型糖鎖」があるといった具合です。AB型の人の細胞はこれら両方の糖鎖を持っていて、O型の人の細胞表面にはどちらもないの(H型のまま)です。これが最初に赤血球にあることがわかったという経緯から「血液型」という言い方が残っているのです。


 『もやしもん』を引くまでもなく私たちはたくさんの常在細菌を表皮に持ってくらしていますし、体内の消化管には腸内細菌や酵母の仲間が住みついています。こういった常在細菌の表面にもいろいろな種類の糖鎖があるのですが、中にはヒトの血液型糖鎖とよく似た(あるいは全く同じ)構造の糖鎖があります。私たちが子宮を離れ生まれた瞬間からこういった微生物との接触が始まります。そこでまさにその時から、私たちの身体は微生物の持つ糖鎖抗原に対する抗体を作り始めるのです。これが、「一度も輸血されたことがない」のに自分とは違う血液型の抗原に対して「自然抗体ができている」その理由と考えられているものです。


 A型の人は接触し体内に入った微生物のB型糖鎖に反応して、B型やAB型の赤血球と結合する抗体を作ります。ですからこの人にB型の血液を輸血すれば、抗原抗体反応が起きてしまうのです。でもこの人は、たとえA型糖鎖と同じ構造の糖鎖を持つ微生物があったとしてもA型の抗体を作ることはできません。もしそれが作れたなら、自分自身の血球や血管の細胞、そして神経細胞などが害されてしまって死んでしまいますから。
 同じようにB型の人はA型糖鎖に反応してA型やAB型の赤血球と結合する抗体を作ります。そしてB型の抗体はつくることができません。O型の人は両方に対する抗体をつくることができ、AB型の人は両方の抗体を作ることはできないのです。ですから、O型の人は他のどの血液が入ってきても抗原抗体反応を起こしてアウト。AB型の人はどれが入ってきてもOKということになるんですね。(逆にO型の血液は他のどの型の人に入れてあわせてもOKで、AB型の血液は同じ型の人以外には入れることができないということにもなります)


 で、ABO式の血液型についてのここまでの話から何が言いたいのかと申しますと、血液のみならずほぼ全身の細胞の表面にある高分子物質の種類…そういうもので「自分勝手」だったり「お人よし」だったり、そんな気質の違いがうまれてくるはずもなかろうという「直感」に訴える議論というものでして、さてどんなものでしょうか…