ネットの実名制

 「インターネット実名制」導入は7月、規制サイトに政府が告知

…政府の情報通信部は、7月27日から施行される「情報通信網利用促進および情報保護などに関する法律」で新たに導入される「制限的本人確認制」に則り、この対象となる企業を調査し、法規制の対象となるWebサイトの運営各社に対して告知した。


制限的本人確認制は、インターネット実名制と呼ばれている。ネット上で他のユーザーを誹謗中傷したり、選挙時に対立候補をおとしめようとするような書き込みに対応するため、本人確認ができた人のみ書き込みを可能とする制度だ。


当初は「表現の自由を侵害する」との反対意見もあったこの制度。しかしインターネット上での誹謗中傷などが頻繁に見られるなど問題が深刻化すると、政府ではこの法律を2007年1月下旬に公布した。


ただし、すぐに全Webサイトを実名制の対象にするのではなく、「1日平均の利用者が30万人以上のポータルサイト、1日平均の利用者数が20万以上のメディアサイト」というように、対象となるWebサイトの制限を設けた。

これらのWebサイトに設けられた掲示板や動画共有サービスを利用するには、韓国国民1人1人に与えられている住民登録番号と名前が一致するなどしてはじめて書き込みやアップロードが許可されることとなる。(後略)
マイコミジャーナル 2007/04/28)

 韓国の話なんですけどね。今夏からこういうネットの制限的実名制が試行されるということで注目しています。もしかしたらそのうちより全面的な実名制へ移行するということもあり得るでしょう。

ただし、従来どおりニックネームやIDを利用した匿名での書き込みは許可される。

 ということですので、案外表面上は従来通りという感じに見えるかもしれません。


 さてこのネットの実名制というものは、日本でもあちこちでたびたび議論になっているものです。私の立場は、匿名の弊害というものを比較考量しても、希望者以外まで実名登録必須というところまで強制するのには賛成できないというあたりでしょうか。現在の発信者特定のトレーサビリティーでこのままいく(様子を見る)という感じでもあります。現在でもそれが全く機能していないことはありません。必要ならばネットカフェや展示PC無断使用には制限を厳しくする、大規模匿名掲示板のトレーサビリティーを今以上に有効化する、ぐらいのことはやらなければならないかもしれませんが。


 ごく初期のインターネット、ほとんどが研究者だけの(に近い)コミュニティーとしてのインターネットから、参入が容易で接続料金もぐっと下がったインターネットになることでネットはおそらく質的に大きく変わりました。良いほうへばかりではありませんが、そこに何のメリットもなかったとするのは誤りでしょう。


 私はこの実名制が「角を矯めて牛を殺す」ことにはならないかと危惧しています。自分が正しいと思ったことなら堂々と実名で発言すれば?という声もありますが、それならば選挙の投票だって実名公開にしてもよいという理屈になりはしないでしょうか。そこには心理的抵抗を減らしたり監視の目に縛られなくて良いという合理的な理由がまだあるはずです。ネットでもこれに近いことが考えられると私は思っています。


 世の中にはたとえば「嫉妬・妬み」などのネガティブな感情が存在しています。この嫉妬というものが過ぎれば、「出る杭は打たれる」というように資質や実力を発揮できない個というものを生み出すことになってしまうでしょう。しかしながらこの感情は、無言のシステムとして世の中の平準化・平等化にも資するところがありまして、まがりなりにも百害あって一利なしとは言えないものなのです。
 結局はそういうメリットとデメリットの比較、リスク評価というものがネットの実名論議では一番の問題になるのでしょうし、その意味で実際にこれが行なわれる韓国の状況は非常に興味深く、しばらく見守りたいと思っています。