天使の宿

92年まで群馬に同様の施設、閉鎖まで20〜30人保護

 かけこみ寺に設けられた「天使の宿」。1986年ごろの写真。プレハブで中央にベッドが置かれている(左は木暮さん)=佐藤報恩財団提供 慈恵病院の「ゆりかご」と似た性格を持つ施設が、1986年から5年半、前橋市内で運営されていた。


 同市堀越町にある社会福祉法人「鐘の鳴る丘愛誠会」の創設者、品川博氏(99年死去)が、同会の敷地内に作った6畳ほどのプレハブ小屋で、名前は「天使の宿」。数か月後、借金苦の親子を受け入れる近くの施設「かけこみ寺」の敷地内に移転した。品川氏は、かけこみ寺を運営する財団法人「佐藤報恩財団」にもかかわっていた。関係者によると、消費者金融からの借金に悩んだ末の心中などから子どもを救う目的で天使の宿を設けたという。(中略)


 赤ちゃんや保育園児など20〜30人が預けられた。大半は後日、親が引き取ったが、児童相談所を経て乳児院などの公的施設に移されたり、財団役員を後見人にしてかけこみ寺で養育されたりする例もあった。女優の木暮実千代さん(90年死去)も活動にかかわったという。


 しかし、92年2月24日、天使の宿で、生後2〜3週間の男の赤ちゃんが凍死しているのが見つかった。それまで1年以上、赤ちゃんが置かれるケースがなかったため、職員の見回りが手薄になっていたという。この事故をきっかけに、群馬県の指導もあって天使の宿は閉鎖された。(後略)
(読売新聞 07.04.29)

 こちらにも同じ事例についての記事があります。
 <赤ちゃんポスト>20年前、群馬にも 6年で10人預かる


 熊本市の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」は今月の10日から運用が始まるそうです(記事)。今までメディアでこの話題が採り上げられる時には、「ゆりかご」の発想の基はドイツだという枕が振られるのが通例でした。そして時にそのシステムがきちんと成果をあげているかどうかについて、よくわかっていないのだとされることもありました。

赤ちゃんポストの発祥地はドイツ。7年前、ハンブルクで乳児の死体遺棄事件が相次ぎ、保育所と託児所を運営する社団法人が一人でも多くの命を救おうと設置したのが始まりだった。現在は計画中のものも含めて全土で90カ所に広がっており、慈恵病院もドイツの事例を参考にしたという。

現地の事情に詳しい大阪大の阪本恭子特任研究員(哲学・生命倫理学)は「遺棄事件が減ったとか、ポストが十分機能しているといったデータはまだない。現状では必ずしも効果があったとはいえない」と指摘する。
 SankeiWeb 社会面の記事


 類似の事例が日本でかつてあって、少なくとも何人かの子どもがこのシステムによって助けられていたというのにはちょっと心強い感じを受けます。「大半は後日、親が引き取った」という記述にも注目したいです。


 ただ、今気になりますのは、匿名が守られたまま子どもを置いていけるこのシステムでは、養子縁組(Wiki)が困難になるのではないかといったところです。

養子縁組は、要式行為であり一定の方式によることが必要である。


普通養子縁組の場合は、当事者の合意に基づき、戸籍法の定めるところにより行う届出が必要である(第799条、第739条準用)。養子は15歳以上であれば実父母の意思と関係なく縁組が可能であるが、15歳未満の者を養子とする縁組の場合は法定代理人による代諾と監護権者の同意が必要となる(代諾縁組、第797条)。なお、この時の監護権者の同意とは、実父母が監護権者の場合のみ要するのであって、実父母以外の者が監護権者である場合には不要となる。


特別養子縁組の場合は、家庭裁判所の審判によらなければならない(第817条の2)。また、実父母との関係がなくなるため、原則として実父母の同意が必要である。もっとも、病気などで実父母が意思を表示できないときや、虐待・育児放棄など子の利益を著しく害する場合は、実父母の同意は不要である(第817条の6)。
(日本語版Wikipediaより)

 「実父母の承諾」といったものがとれない匿名システムと、この養子縁組制度の相性は意外に悪いものとなるように思われてなりません。家裁が「育児放棄」の線で明確に配慮して養子縁組の成立をサポートするような形になればよいのですが。
 もし養子縁組が叶わなければ、赤ちゃんは児童相談所乳児院>養護施設と回り、里親さんが見つからなければ18歳まで施設での生活となります。そこにも幸せはあるのでしょうが、「ゆりかご」を匿名で使いたいという実父母の気持ちで養子縁組がうまくいかないケースが出てくるとすれば、匿名で引き受けることが赤ちゃんの幸福を阻害するということにもなりかねないと思います。
 「天使の宿」でも養子縁組の話には触れられていませんし、この点はかなり危惧されますね。