酒はきちがい水

麻生氏失言:政権タガ外れ露呈「安倍後継」レースに影響?

 20日、鳥取県倉吉市での演説でも「酒は『きちがい水』だとか何とか皆言うもんだから、勢いとかいろんなことありますよ」などと、またもや問題表現を口にした。
(中略)
 一方、野党は「全く人権感覚がない」(社民党福島瑞穂党首)などと批判を強めている。民主、社民、国民新の3党は罷免を要求する構えだ。【佐藤千矢子】
毎日新聞 2007年7月20日

 「酒はきちがい水」というのは古くからある表現。自分の演説会でこの表現が出たからといって「人権感覚云々」といい、言葉狩りに近い糾弾をするというのは私の趣味には合いません。まして罷免要求をするなんて、ちょっとためにする批難にも思えます。
 何らかの障碍を持つ人(たち)に対して心無い言葉を発するというのと、単に通用している関連語を使うというのは少なくとも分けて考えて欲しいです。たとえば「盲縞」がどんな場合でも使えなくなるとか、「片手落ち」がドラマで言い換えられてしまうとか、それは配慮のようでいて配慮ではなく過剰な言葉狩り意識がもたらした弊害と私は考えます。

酒の異名

 「狂薬」とか「狂米」という言い方が大陸から伝わってきています。前者は『晋書』裴楷伝に見られるもの。他に「禍泉」(清異緑)、「迷魂湯」(堅瓠集)、「魔漿」(梁武帝「断酒肉文」)、「爛腸之食」(呂氏春秋)。曹操の息子の曹植の『酒譜』では「荒淫之源」というのもあるとか。
 褒め言葉では「百薬の長」とか「天之美禄」というのが『漢書』食貨志下に。陶淵明の「飲酒其七」では「忘憂」。他に「掃愁帚」、「甘露」、「客談」、「紅友」などなど。
 日本語源では「さけ」が神様の食べ物ということで*1、あまり酔っ払いにも厳しくない文化伝統がありますが、それこそ酒気帯び運転に批難が集まる今日この頃ですから「きちがい水」あたりの貶し言葉をむやみに禁ずるというのは得策ではないでしょう。

*1:「酒(さけ)」の語源は「け(饌)」(神饌…神の食べ物)に美称の「さ」がついたものだという説を私は取ります