杉並区立和田中の夜間授業

 この和田中の夜間授業に関してはネットでもっと話題になっているかな〜と思いましたが、わりに意見を書かれる方が少ないという感じです。はてブでは「asahi.com:和田中の「夜スペ」、17日遅れで始動 11人受講」の記事についていたものあたりだけではないかと。
 和田中はあの宗教学者島田裕巳氏が通った学校で、近くに立正佼成会の本部もあるそうです(←これ豆知識*1 笑)。


 さてこの話は何度かマスメディアでも採り上げられていて大まかなところは御承知の方が多いと思いますが、区立の中学で進学塾のリソースを使った課外授業が企画されたところから話が始まります。これに対して都教委が危惧を示して計画が一旦止まり(この時の報道で私はこの件を知りました)、杉並区の教育委員会が改善点などを指導した上で都教委に回答し、都教委が容認に転じることになって今月の26日からそれが開始されたというのが大まかなストーリーでした。
 これが大きく報道された背景には、和田中の藤原和博校長がリクルート社出身の民間人校長だったという点もあったと思います。藤原校長がこの試みについて昨年12月の段階で出したお知らせにその意図が書かれていますが、それは次のようなものです。
 お待たせしました! 和田中の校舎を使って夜間に塾を開きます。(pdfファイル)

 いよいよ、私立に行かずに済む受験サポートを、全国の公立中学校に先駆けて、地域本部主催で行います。平日の夜に学校で開く進学塾。中2の1月から1年間の集中講座。これにて「私立を超えた公立校」を確立します。
公立校の弱点である「吹きこぼれ」を出さないため、都立の進学重点校や私立の中上位校を狙う夜の特別コース。『夜スペ』と名付けました。


 塾講師を積極的に迎えて本校の教諭陣との交流を図り、「塾と学校が敵対せずにがっぷり四つに組むとどれだけ教育効果が上がるのか」に挑戦します。「英語Aコース」同様、地域本部主催の私塾ですから、やりたい希望者を募ります。安いけど、お金はかかります。『夜スペ』は数学と国語を集中して学びます。
 (後略)

 ここに出てくる「地域本部」とは「保護者らボランティアの学校支援組織」だそうです。また聞きなれない「吹きこぼれ」というタームがありますが、これは「学習内容が大幅に減った学校の授業だけでは指導しきれない中上位層」の児童を指すとのこと。
 (こうした用語や前後のいきさつなどについて、産経新聞の1月26日の記事「特効薬か劇薬か 和田中「夜スペ」スタート」あたりが参考になりました。ご存じなかった方はまずこの記事をお読みになるとよいかと。)


 「夜スペ」の試みに対して最初に都教委が問題にしたのは「公教育の機会均等という観点」「特定の塾の営利活動という点」「教材づくりに関わる教員の兼業兼職禁止違反という観点」でしたが、容認に転じてから出したプレスリリースでは次のように「一応問題は解決した」という内容になっています。
 杉並区立和田中学校における私塾連携の取組についての東京都教育委員会の見解(平成20年1月24日)

 東京都教育委員会としては、区市町村教育委員会及び各学校において、児童・生徒の学力向上のため、それぞれの実態に応じて多様な取組を行い努力しているところと承知している。今後ともこうした学校教育における取組の一層の充実が必要であると考える。
 ところで、今回の杉並区教育委員会の取組は、生徒の学力向上のための新たな手法としてその実施を検討されたものであるが、先に指摘したとおりいくつかの疑義があり、杉並区教育委員会に再考を求めたところである。
 平成20年1月23日、杉並区教育委員会から回答を得て、その内容を検討したところ、今回の取組は学校の教育活動外であること、また、生徒の学力向上という公共の利益のためのものであることが明確となり、教育関連法規及び公共財産の管理に係る規定等に照らして不適切なものではないと認められた。
 杉並区教育委員会においては、本取組に対する保護者への理解をさらに得るとともに、今後、疑義が生じないよう努力されることを強く期待する。

 杉並区教委が都教委に出した回答は、1月23日の読売新聞によれば次のようなものでした。

杉並区立和田中の夜間授業、都教委が一転容認へ
 …
 都教委が最も懸念していたのは、夜間の授業が、同校の教育活動の一環かどうかという点。これについて、区教委は「地元住民や保護者で作る実行委が、校舎を借りて行う学校教育外の活動とする」としたうえで、教師が教材の編集を行わないなど、学校側が夜間授業にかかわらないことにした。23日午後に正式決定し、都教委に文書で回答する。
(2008年1月23日14時42分 読売新聞)


 この件に関して管見では最もまとまった批判をしていたのがJANJANの下の記事
 →東京・杉並区立和田中学、進学塾と提携 −夜間塾問題を検証する−
 だと思います。ここでもわかりますが、和田中の企てに対し都教委を動かしても中止すべきだとはじめに動いたのは土屋敬之氏らの都議さんたちや試みに参加しない父兄さんたちだったようで、土屋都議の言葉は上記産経記事から引くと

 公立学校は成績下位層の支援も含め地味な教育が中心だ。企業の論理とは相いれない。教員の尊厳が失われ結局は塾に食いつぶされる。教員の質向上が先決。

 という感じの主張だったそうです。本ケースに関しては同じJANJANの記事でも次のようなものもありましたが
 →杉並区立中学校の英才教育にもの申す
 こちらの方は何かピントがずれている感じもあり、私にはよくわかりません。
 賛成する意見もあまり目立たなかったのですが、たまたま目に入ったところを挙げると、「教育一考」というタイトルのサイトの
 →区立中学と進学塾がタイアップ−進む学校・学習塾の連携
 あたりでしょうか。こちらの方はもともとこうした連携を進めるべきとお思いだったようです。


 さてこの和田中の企てを批判する方々の側では「公教育のあり方」とかその理念といった付近で考えられておられます。でもどうも話がかみ合っていないと言いますか、それは和田中の藤原校長や関係父兄の方々の意図したところあたりと見当が違う方向への批判にも私には見えます。お互いの意見が対峙した議論になっていないように思えるのです。
 批判の方々は「公教育の機会均等への危惧」を持ち出されていているのに対し、和田中関係者の側でもこの試みを「機会均等の実現」と考えられている節がないでしょうか。それは「私立に対する公立中の機会均等の試み」とでもいえるものです。つまり機会均等だの公平だのという事に対して別にどちらもネガティブではない。ただ「誰の」「どのような側面」での公平性の確保かというところについてずれがあるということなのではないかと見えてしまうのです。
 書き始めてみるとなんだか長くなりそうですね。とりあえず今日はこのぐらいにして…。

*1:いえ、単純に氏の幻冬舎新書『日本の10大新宗教』に書いてあったから知ったんですけど