「過熱するスピリチュアル・ブーム」(クローズアップ現代)
番組の筋立ては「自己責任に疲れた人々がスピリチュアルと言われるものに向っている」という大枠と「彼らを疲れ果てさせた成果主義などは人々にプレッシャーを与え続けている⇒社会問題」という背景の世相批判から作られていたと受け取りました。
この流れに沿って香山リカ氏がキーワードとして挙げたものは二つ、「成果主義」と「自己実現」でした。前者でプレッシャーが過度に与えられ、後者で(平凡ではいられないと)焦りが生じているという指摘です。
そしてブームの中にいる人たちがスピリチュアルなものに求めていると分析されたものは、
・(自己)肯定感
・才能主義的なものからの脱却(悪く言えば逃避)
・(自己)責任を免除してくれる言葉
→「運命」とか「流れ」のようなものが自らのはからいを超えて働いているんだという「彼らが聞きたいと思っている言葉でのアドバイス」
といったところでしょうか。
番組の前半では、非正規雇用での労働をしながら人生に疲れた感じでスピリチュアルなものにはまる30代の女性Aさんと、ベンチャー企業を立ち上げて結果への不安から占いに頼る40代の男性など数人の(受け取る側の)実例がだされていました。
後半ではそのスピリチュアルブームに便乗した霊感商法の一つが(提供する側の)実例として出されています。これは神奈川県警の警視が逮捕されたことで話題になった「神世界霊感商法」でしょうね。裁判で係争中の事例ですので曖昧にぼかした表現でしたが。
部下3人1000万使う 神世界霊感商法
「神世界」グループのヒーリングサロンを利用した霊感商法に関与している疑いがある神奈川県警の吉田澄雄警視(51)の部下3人が警視の勧誘で鑑定料などに使った金額は計1000万円以上に上ることが22日、分かった。県警は吉田警視が部下を霊感商法に積極的に誘い込んでいた可能性があると見て全容解明を急ぐ。
調べでは、警視の部下の巡査長(36)は平成17年ごろ、病気で悩んだときに吉田警視に声をかけられてサロンに行き、「鑑定料や宗教用品に700万円使った」という。また、横須賀署の別の警視(47)も「体を悪くして相談し、300万円をつぎ込んだ」と話している。県警交通部の警部(43)は数十万円支払ったという。(後略)
(MSN産経ニュース 2007/12/22)
そしてこれらに対して番組のまとめ的に香山氏が言ったのは「自分の意志を大事にして欲しい」ということでした。
おおまかな構成としては破綻もなくまとまっていたと感じます。香山リカ氏が意外なほどまともなことを(逆に言えば当たり前で面白みがないことを)語られていたなあという印象。
詐欺的霊感商法は指弾されてしかるべきと考えます。ですからこの番組で「裏の手口」が紹介されていたのは意味のあることとして積極的に評価したいです。(最初は「運気が好転するから」とポジティブなところで食いつかせ、途中で「先祖の因果を断ち切らないと恐ろしいことになる」とネガティブなところで恫喝するという手法です)
30分番組にこれ以上を求めるのは本来難しいと思うのですがあえて弱点(と見えるもの)を申しますと、果たしてここで指摘されている(自己)責任からの逃避的側面が現代社会に特有のものと言い切れるのかということ(ずっと以前から同じ構造で占いを頼る人はいたんじゃないか。成果主義というタームを出しただけでは現在に特有の世相とは言い切れないのではないかということ)と、自分で考え、自分で決めるということに疲れた人たちに対して「自分の意志を大事に」と助言することはほとんど意味のないことでは、というあたりです。
いずれにせよ誰がAさんやベンチャー社長の男性を笑えるでしょうか? 明確に詐欺的なものがない限り、彼らが「スピリチュアル」なものに惹かれたり頼ったりすることを一概に否定的に捉えることはできないと、それもまた人間性の一つの側面ではないかと思ったのでした。