アイヌモシリ2008の宣言文など

 「先住民族サミット」アイヌモシリ2008を告げるサイトへ行き、そこで採択された二風谷宣言(pdf)と日本政府への提言(pdf)を読ませていただきました。
 まずこのサイトから「アイヌ」とはどういう人なのかを知ろうと思ったのですが、権利主体のアイヌとは何なのかを定義する記述はなく、これは市民運動的デモンストレーションではないかという印象を今のところ受けています。さらに参加(提言)者として「ウチナンチュ」という方が出てきたり、「提言」の末尾に多民族の一員として「在日朝鮮人」という文言が入れられたり…。
 「アイヌ」主体がどれだけまとまっているかには無知もあり何も言えないのですが、すくなくとも民族主義的に「ウチナンチュ」自治を求める人が多数ではないということを考えると、これもまた「アイヌ」を標榜する方の一部が参加したものかもしれないと思えたり、「先住性」を正当性の根拠にするならば「在日朝鮮人」問題とどう兼ね合いを図るのかわからなかったり、「アイヌ」を構成するのは血統なのか文化なのかはたまた自認なのか、いよいよわからないと感じてしまうのは私だけでしょうか。


 現実的な政治的提言を行なおうとするならば、情緒に訴える部分をこえ概念をはっきりさせたり問題解決の手段・手順を明確にしたり、まだまだやらなければならないことは多いのではないかと思わざるを得ません。
 民主主義国家では多数派の形成が政治的主張を通すための必要事です。理念として他の日本人にアピールすべきことを明らかにして、決してそれがポジショントークに留まるものではないというところを打ち出していただきたいと考えます。

我々の抱える問題と懸念
 我々は、この星の状態に関して我々が持つ多大な懸念を表したい。「母なる自然」は我々を育んでくれる。我々は、G8 諸国によって促進される「人類が自然を操り支配できる」という考えに基づいた経済成長規範と近代化は誤りであると考える。この支配的思考と実践が、環境変動、世界的食糧危機、石油価格高騰を招いた原因である。貧困や、富ある者となき者の格差を拡大し、平和への道を見えなくするこれらの問題は、正にG8 諸国が今回の北海道サミットで取り組もうとしているものである。我々の抱える問題と懸念のいくつかは以下のものである。
. 我々の持つ市民的、政治的、経済的、文化的、社会的権利への悪質な侵害の継続。
. 先住民族共同体における軍事化、専断的な拘束、先住民活動家の法的権限外の殺害、国家的防衛手段の使用、そして我々の領土で行われ、我々共同体内での対立へとつながる破壊的計画に反対するための合法的な抗議活動と抵抗を違法化する反テロリズム法の使用。
. 国家、企業、地主による我々の土地の略奪。
. 我々に対する人種差別、そして我々独自の言語の使用と文化の実践に対する差別的待遇の継続。
. 我々の先住民族としての集団的アイデンティティーの未承認。
. 遺伝子資源やそれに関する知識の生物的剽窃を含む、我々の文化的遺産、伝統文化的表現と伝統的知識といった知的所有権の略奪。
. 神聖で宗教的な地の冒涜と破壊。
. 気候変動の影響を軽減するとうたいながら、実際は逆効果となり、さらに潜在的なマイナスの影響を拡大させる以下のような策。
. バイオ燃料のための単一穀物生産の拡大、森林を二酸化炭素の吸収源とみなすこと、そして水力発電用の巨大ダムのさらなる建設を理由とした先住民族の土地からの移住。
. 森林伐採と衰退の改善による排気ガス削減計画(REDD)下で行われる排出権取引のような、さらに中央化と上意下達的森林管理へとつながる市場基本構造。
. 以下を含む、食糧危機と飢餓の増加の原因。
. 生業用資源(森林、狩猟場、農地、水、生草地など)の管理と利用権利、そして伝統的生活様式の基盤の減少。
. 多額の助成金を受けた安価な農産物の豊かな国から貧しい国への投げ売り。
. 食料用穀物の生産からバイオ燃料のための穀物生産への転換。
. 食料貯蔵と食料品価格への投機。
. 化学集約型産業的農業と、遺伝子組み換え種の使用積極的な促進。
. さらなる環境破壊と強制的移動、そして我々の共同体中での貧困へとつながり、我々からの自由で事前に得られる承諾を得ずに行われる、我々の領土からの石油、ガス、鉱物のさらなる採掘。
. 世界の文化的、言語的多様性をさらに減少させる先住民族言語と文化の消滅の増大。
(「二風谷宣言」より)

 ここで認識されている「問題と懸念」もあまりに総花的でポイントが見えてきません。まず「我々」として権利を訴えるならば権利主体の明確な定義を。知的所有権の略奪を言うならば実例を。聖性の冒涜まで言うならばアイヌの宗教(団体)としての主張を。従来の「気候変動対策」へもの言いをするならばデータと論理的な言葉を。「我々の領土」という表現を使うならばその主張の先にある「自治」もしくは「独立」へのアピールを…
 とてもではありませんがこれら全部まともに取り組めるものとは思い難いです。もっと論点を絞り、真っ当に多数派を形成できる主張を考えられたほうがよろしいのではないかと愚考します。
 そして何より「アイヌ」とは何者であるのか、まさにそれを主張する方々の中からはっきりとおっしゃっていただかなければ、賛否を考える以前の問題に思えるのですが…。

追記

 今朝はちょっと病院に行ったのですが、その待合室で読んだ地方紙に上記サミットの話題とともに秋辺得平ウタリ協会副理事長の発言として「血統図の自作やIDカードの作成を考えたい」という言葉がありました。アイヌ認定のために血統図が…ということでしたら、ウタリ協会が考えるアイヌとは血統(中心のもの)に他ならないということなのでしょう。