杞憂

列子』天瑞第一より

 杞國、有人憂天地崩墜、身亡所寄、廢寢食者。又有憂彼之所憂者。因徃曉之曰、天積氣耳、亡處亡氣。若屈伸呼吸、終日在天中行止。奈何憂崩墜乎。
 杞の国に、天地崩墜し、身の寄る所をうしなうを憂いて、寝食を廃する人有り。また彼の憂うる所を憂うる者有り。因りて往きて之をさとしてして曰く、「天は積気のみ、処として気なきはなし。屈伸呼吸のごときは、終日天中に在りて行止す。奈何ぞ崩墜を憂えんや」と。 

 其人曰、天果積氣、日月星宿不當墜耶。曉之者曰、日月星宿亦積氣中之有光耀者。只使墜、亦不能有所中傷。
 其の人の曰く、「天果たして積気ならば、日月星宿まさに墜つべからざるや」と。之をさとす者曰く、「日月星宿また積気中の光耀有る者なり。たとひ墜ちしむるも、またあたりやぶる所有るあたわず」と。

 其人曰、奈地壞何。曉者曰、地積塊耳。充塞四虚、亡處亡塊。若躇歩跐蹈、終日在地上行止。奈何憂其壞。
 其の人の曰く、「地の壊るるをいかにせん」と。さとす者曰く、「地は積塊のみ。四虚を充塞し、処として塊なきはなし。躇歩跐蹈するごときは、終日地上に在りて行止す。いかんぞ其の壊るるを憂えん」と。 

 其人舍然大喜、曉之者亦舍然大喜。
 其の人舍然として大いに喜び、之をさとす者もまた舍然として大いに喜ぶ。

 ※積気…気の集まり。行使す…行動する。積塊…土の塊。躇歩跐蹈…足を地に踏みつけて歩く。舍然…迷いがない様。
 (うまく表示されませんが、跐〜足偏に此 という文字です。躇歩跐蹈は「ちょほしとう」と読みます)


インド16歳少女、欧州の「ビッグバン実験」ショックで自殺

[ボーパール(インド) 10日 ロイター]インド中部マディヤプラディシュ州で16歳の少女が10日、欧州で行われる素粒子加速装置を使った「ビッグバン」実験によって地球が終わりを迎えるとの報道にショックを受けて自殺した。少女の父親が語った。(後略)
 (MSN産経ニュース 2008.9.11)


 ある年代以前の方は、「1999年7の月、空から恐怖の大王がやってきて…」という話に小さい頃恐怖を覚えていたことがあるはず。自分は30代になったばかりで死ぬのか…なんて少し私も怖れたものでした。オウム真理教も、この予言への恐怖を利用して終末論を唱えていたはずです。
 杞憂も集団で共有されれば(別の意味で)実体化するという怖い例だと思います。
 この少女は一人で悩んだものと思われますが、嘘でもいいからお節介に忠告してくれる周囲の人がいたら良かったのにと残念でなりません。