知的計画

 米で新たな進化論争 「神」ではなく「知的計画」? 2005年06月07日17時08分

 「生命の誕生や進化の背景には知的な計画があった」という「Intelligent Design(知的計画=ID)」説を学校で教えようという主張が、米国で頭をもたげている。米国では、旧約聖書の創世記に基づき、天地と人類は神がつくったとするキリスト教右派が勢力を保つ。そうした宗教右派の「進化論を学校で教えるな」という主張とは表向き一線を画しているのがID推進派の特徴だ。


 米東部ペンシルベニア州ドーバーで5月17日、日本の教育委員会にあたる学校区の公選委員の予備選挙があり、争点はIDの扱いをどうするかになった。なぜ生命は誕生したのか、生物がいかにしていまの形を得たかは、進化論だけでは説明しきれず、そこに知的な計画が働いているというのがIDの主張だ。「神がつくった」とは言わない。

 記事に出ている記述を読む限り、理神論(deism)が新しい意匠をまとって出てきたようにも思えました。人格神を言わず、神と言う語を使うのを避けながら神(的存在)を理性的に肯定するところなどからそう思えたのです。念のため辞書で確認すると、

 理神論 自然神論、自然宗教ともいう。神を世界の創造者として認めるが、世界を支配する人格的存在とは考えず、世界は創造された後では自然法則に従って運動し神の干渉を必要としないと考え、啓示や奇蹟などを拒む理性的な宗教観。ハーバート、トーランド、ロック、ニュートンヴォルテールなど17,18世紀の啓蒙期の思想家によって主張されたもの。(岩波『哲学小辞典』第8刷)…家にはこれぐらいしかなかったので…

 この定義を見てみると少し違うとも言えるでしょうか。何より過去の理神論が「創造」を認めてその後は自然法則の働きの(=科学的見方の)優位を言ったのに対し、IDは(少なくとも表向き)「創造」は言わないですから。あとIDでは意識的に「神」とか「神的存在」という言葉も避けているようですね。
 記事の続きを見てみましょう。

(中略)
 IDネットのジョン・カルバート共同代表は「進化は事実だとしても、推し進める何らかの仕組みがあるはず。それがIDだ。特に地球誕生や生命誕生は、進化論では説明できず、現在の自然界を見ても、知的な計画の存在を多くの科学者が認めている」と言う。進化論を教えるな、とは主張しない。


 これに対し、進化論教育の維持を訴える非営利組織「全米科学教育センター」のユージニー・スコット代表は「憲法政教分離原則によって公立学校で天地創造説を教えられないため、宗教色を薄めたIDを持ち出しただけ。科学で説明できない『穴』があると、それを『神』で説明しようとする、天地創造説を唱える人たちの手段だ」と話す。


 CBSテレビが昨年11月に行った世論調査によると、米国人の55%は、神が人間をつくったと信じ、27%は進化の過程に神が関与したとし、全く神がかかわっていないとする人は13%にとどまった。


 元記事の論調では、まさに理神論的なもの(その亜流)を宗教教育推進派が持ち出してきたというように書かれています。そしてそれに対して科学的教育推進派が危惧を表明していると…。記事の関心の中心はやはり「科学−宗教」の世界観の対立の構図に思えます。いかにもアメリカのジャーナリズム的視点のようですし、はじめからキリスト教右派の存在をほのめかしているところには何か元記事のバイアスも感じられます。


 単純にIDで検索してすぐ引っかかるのがここのIntelligent Design Networkです。このNPOがIDムーブメントの一つの核だと思われます。(微妙な訳ですが冒頭の文を挙げると)

Objectivity results from the use of the scientific method without philosophic or religious assumptions in seeking answers to the question: Where do we come from? 
We believe objectivity will lead not only to good origins science, but also to constitutional neutrality in this subjective, historical science that unavoidably impacts religion. We promote the scientific evidence of intelligent design because proper consideration of that evidence is necessary to achieve not only scientific objectivity but also constitutional neutrality.


 客観性というものは、「われわれはどこから来たのか」という疑問への答えを探すときに、哲学的もしくは宗教的仮定抜きで科学的方法を用いる結果として生まれてくる。
 われわれは、宗教とぶつからざるを得ないこの主観的な歴史的科学において、客観性というものが科学的に妥当とされる起源のみならず、憲法的中立性へも導いてくれると信じる。(そして)われわれはインテリジェント・デザインの科学的証明をすすめてゆく。なぜならその証明を適切に考えることは、科学的客観性と同時に憲法上の中立性も成就していくために必要だからである。

 トップページの印象的な画像から判断すると、IDが標榜するものは

  • 宗教でも自然主義でもない科学的方法の立場を取り
  • それによって得られる客観性で
  • (知的)デザインとデザイン抜きの進化論の両説を判断し
  • 最も科学的な説明と
  • 憲法的中立性を目指す

 ということのようです。少なくとも自らが宗教的であるという主張はみられません。


 要するに、この世界の成立に何らかの知的存在のデザインがあるとしか思えないとする方々が、科学的だから正しいとされた進化説(自然淘汰がこの世界を今あるように生み出した)という考えは誤りなのではとしているのがこのIntelligent designの運動なのでしょう。
 始まりは宗教的というよりとても単純で直観的な判断におかれているように思われます


 IDに批判的と思われるこちらのサイトでは、IDがまさに自然淘汰の科学的理論(進化論)の代案として教えられるべきだとその支持者たちが主張していると書かれています。

Intelligent design (ID) refers to the theory that intelligent causes are responsible for the origin of the universe and of life in all its diversity.* Advocates of ID maintain that their theory is scientific and provides empirical proof for the existence of God or superintelligent aliens. They believe that design is empirically detectable in nature and in living systems. They claim that intelligent design should be taught in the science classroom because it is an alternative to the scientific theory of natural selection.


インテリジェント・デザイン(ID)は、宇宙の起源と生命の起源をその多様性のまますべて「何らかの知性的根源因」があったとする理論に帰させている。IDの支持者たちは、彼らの理論は科学的であり、神あるいは超知性的なエイリアンの存在の実証的な証拠を挙げていると主張している。彼らは(そうした超知性がもたらした)デザインは経験的(実証的)に自然の中や命を持つシステムの中に見つけうるものだと信じている。(そして)彼らはインテリジェント・デザイン自然淘汰の科学的理論(進化論)の代案になり得るがゆえに科学の授業で教えられるべきだと主張している。

 ただし批判色が明確なこのサイトでも、IDの主張が聖書の記述と一致しないところもあるとは認めており、それがIDを支持する側のエクスキューズになっている(つまりそのまま宗教右派の主張ではない)とは認めていらっしゃいますね。


 Wiki(英語版)を見ても、このIDのムーブメントが自然淘汰という進化論の考えに反対するものとして成立したと書いてあります。背景に進化論論争があるのは確かなのでしょう。しかしながら(疑うに足る経緯があったにせよ)それが宗教的右派の陰謀?であると決め付けるのはどうかなという感想を持ちました。現時点で私はこれを宗教教育のカムフラージュだと言い切るものではありません。
 何より彼らが「科学的手法」を否定していないのですから、彼らの主張を一つの仮説として捉えて、あとは様々な検証に任せるだけで十分ではないかと思います。自ずから消えるべき主張ならば消えていくと達観する姿勢こそ「科学的」だと考えるのですが…。


 この記事は黒影@幻影随想さんのところでも取り上げられています。

端的に言えば科学に神を持ち込みたい宗教勢力の新たなコマーシャル戦略の一つというところでしょうか。
ラエリアンみたいな「宇宙人が創造者だ!」と主張するキワモノも便乗していますが)

 興味を持たれた方はこの黒影氏の記事もお読みになられたらと思います。日本におけるIDにちょっと触れられておりますし。

さて、歴史はそれほど古くないインテリジェントデザイン理論ですが
既に日本にも入り込んでおり、有名大学の大学教授ですらはまっちゃっています。
関連情報を検索していて爆笑させていただきました。

 少々意地悪く某教授が取り上げられております。この方がトンデモ説に加担しているという筋書きです。ただし、黒影氏に一つ申し上げたいのは、

 インテリジェントデザイン理論の裏に進化論を葬りたいキリスト教系の団体がいるのは周知の事実。

 とまで言い切ると、陰謀論になってしまいますよ、ということと

そもそも進化論について学んだことがあるのかどうかすら疑わしい文学部卒の渡辺氏が、ろくに背景知識も無いまま宣伝のためにしゃべらされているというのが実情でしたか。

 という一節ですね。文学部卒の私としてはちょっとラベリングやめてね、と申し上げたい気もあります(笑)
 実際、理系というだけで「進化論」について何事か知っているはずなどとは口が裂けてもいえないでしょう。それこそ多様な分野を含んでおりますから。文系理系の類型論は大して意味がないものです。


※訳出の部分などは全くいい加減なもので、間違いなどがありましたらご指摘ください。反省します。

 新星雲紀。双太陽青九三より黄十七の夏。アススタータ五〇における惑星開発委員会は、《シ》の命を受け、アイ星域第三惑星にヘリオ・セス・ベータ型開発をこころみることになった。これによって、惑星開発委員会の存在が原住民に与える影響、すなわち《神意》の発現形式としての宗教の発生…

 光瀬龍百億の昼と千億の夜』より