西国三十三所

 毎日新聞の記事で知りましたが、JR西日本脱線事故の犠牲者に対して、西国三十三所観音霊場の諸寺が共同で四十九日の法要を営んだそうです。

尼崎脱線事故西国三十三所観音霊場の寺院が四十九日法要


尼崎脱線事故犠牲者の冥福を祈り、「西国三十三所観音霊場」の寺院が11日、四十九日法要を営んだ。兵庫県宝塚市中山寺での法要では、午前9時ごろから、導師を務める池田光輝長老ら僧侶11人が阿弥陀堂で読経。阿弥陀如来の前には遺影も置かれ、遺族らは静かに手を合わせた。
 犠牲になった大阪府豊能町の新城靖枝さん(41)のいとこの鏑木恵子さん(55)=宝塚市=は「残念で悔しくてならない。明るい顔がずっと記憶に残っている。いつか天国に行ったら抱いて慰めてあげたい」と話した。


 同霊場には清水寺京都市)、長谷寺奈良県桜井市)、紀三井寺和歌山市)など近畿と岐阜県の33寺院が加わっている。「西国三十三所札所会」会長の前田孝道・紀三井寺貫主が5月下旬、「事故現場で四十九日法要を営みたい」とJR西日本に要望。しかし同社から同意を得られず、それぞれの寺院で事故発生時間に合わせて営むよう呼びかけていた。【吉田勝】

毎日新聞 2005年6月11日 11時53分)


 西国三十三所観音霊場とは、観世音菩薩を本尊とする諸寺を巡る西国巡礼の代表的な順路として知られるものです。伝承では養老二年(718)に大和長谷寺の徳道上人によって創められた巡礼道で、一度衰微しかけたのですが永延二年(988)に花山法皇によって再興され、その後現在まで信仰を集めているとのこと。
 加わる諸寺には関西方面の有名寺院も多く、四国八十八箇所の御遍路とともに広く知られた巡礼コースです。なぜか私の実家周辺でも(関西から遠いのですが)どなたかが亡くなった家では、家族・親類・ご近所の方々が入れ替わり毎日その家に集い、西国三十三所の巡礼歌を独特の節回しで四十九日間唱える(詠う)という葬送儀礼の風習がありました。そのせいで私にも馴染み深い寺々です。


 その諸寺が、特別な結縁はなくても亡くなられた被害者のために法要を営むということですが、自発的な慰霊の行為として有難いことだと私などには思えてしまいます。記事で不可解なのは、JR西日本が事故現場を法要の場として使わせなかったことを取り上げていることです。若干非難のニュアンスが見えるとは僻目でしょうか。あくまでも三十三所側の篤志で行うことですし、被害者の家族の願いなどとも次元が異なりますので、JR側にも理由があったことでしょうしわざわざ断ったから云々ということなど言わなければよいのに…。


 実家のあたりで死者を送る役割を果たす西国三十三所の巡礼歌が、この事故の犠牲者の皆様も安らかにお送りできるようお祈りいたします。
 記事に登場する寺院の歌をあげます*1

第16番 清水寺

 松風や音羽の滝の清水を 結ぶ心は涼しかるらん

第8番 長谷寺

 いく度も参る心は初瀬寺 山も誓ひも深き谷川

第2番 紀三井寺

 ふるさとをはるばるここに紀三井寺 花の都も近くなるらん

*1:この日記で参考にさせていただいたのは、古寺巡礼シリーズ11『ドライブ西国三十三ヵ所』札所研究会編、1979、でした