懐メロ

 八時を十数分ほどまわったころふとテレビをつけたらNHKの歌謡コンサートですか、これが画面に映りました。こういうベタな歌番組などは見なくなって久しい、というかほとんどここ十年も見ていないのですが、画面に岩崎宏美が。なんと「ロマンス」を歌うらしい…これは見なければ、と思っていると横に香西かおりもいて、この人は確か演歌歌手ですが交遊のあった村下孝蔵の「初恋」を歌うとのこと。村下さんが亡くなって今年で七回忌ということが語られまして、私は思わずほとんど正座するような感じで視聴しました。

ロマンス(阿久悠作詞)

 あなたお願いよ 席を立たないで
 息がかかるほど そばにいて欲しい
 あなたが
 好きなんです


 一人でいるのが こわくなる
 このまま逢えなく なりそうで
 くちづけさえ 知らないけど
 これが愛
 なのね

 ああ、これは私にとっての懐メロというものなんだなあと感慨しきり。でも岩崎宏美は昔より安定した歌い方で声も全く衰えていません。昔微かにあった不安定さがないようで、むしろ(懐メロとしては)ちょっとだけ残念。素晴らしい歌も多く歌われていますが、私はこの「ロマンス」が一番好きです。

初恋(村下孝蔵作詞・作曲)

 五月雨は緑色
 悲しくさせたよ一人の午後は
 恋をして 寂しくて
 届かぬ思いを暖めていた


 好きだよと言えずに初恋は
 ふりこ細工の心
 放課後の校庭を 走る君がいた
 遠くでぼくはいつでも 君を探してた
 浅い夢だから 胸をはなれない

 香西さんが歌うということでちょっとどうかなと思いましたが、いい方に期待を裏切ってくれました。村下さんとは違う彼女なりの歌い方で、地味に押さえて女性らしく歌われていました。これはこれで素敵でした。
 そして何より編曲が私好みでした。出だしのワンコーラスをアコースティックギター一本で静かに始めるところなど、本当に胸に染み入る感じでした。


 そう言えば数日前の残暑の夕暮れ、わんこと散歩に出ている時、近くの自家菜園みたいなところで鶏頭が咲き終わろうとしているのを見つけ、これも思い出していました。

晩夏 ひとりの季節 (荒井由美作詞・作曲)

 ゆく夏に 名残る暑さは
 夕焼けを 吸って燃え立つ 葉鶏頭
 秋風の心細さは コスモス


 なにもかも捨てたい恋があったのに
 不安な夢があったのに
 いつかしら 時のどこかへ置き去り


 空色は水色に 茜は紅に
 やがて来る 淋しい季節が恋人なの

 これはドラマ『まぼろしのブドウ園』の主題歌で使われていました。都会に出てきている青年が、女の子に、実家はぶどう園をやっているとついた嘘が話の中心でした。なぜか私はユーミンの歌としてはこの「晩夏」と「HAPPY NEW YEAR」が好きで、その後の曲も嫌いではありませんし懐かしく思われますが、二曲だけは別格で毎年その季節に一度は聞いているのでした。


 先ほど降っていた雨も止み、今は虫の音がうるさいくらいに聞こえています。いきなり何か違う時間の中に放り込まれたようで、思わず懐メロを書いてしまったという次第。知っている人だけにサービスです(笑