軍国主義の象徴
靖国神社に首相が参拝なさるのを危惧される方々(の一部?)には、私は悪意は見ておりません。むしろそれは各々の良心を働かせてのことかもしれないと思います。ただ残念ながら認識の錯誤と申しますか、今も靖国神社を軍国主義か何かの象徴であると悪く思っておられるのではないかと…。
今現在の宗教法人靖国神社にいささかなりとも信を置く方の中で、それを軍国主義に結びつけている人はいない(あるいはいてもごく少数)であると思います。単純にその言い分を伺えばそう判断できると考えます。ネットに多く溢れる靖国重視の考えの中では「国を守って亡くなった方を無駄死にとか悪者だとか言うことはできない」という見方が多いように個人的には受け取っています。また私は、戦死者のご家族で靖国神社を大事に思う方がいらっしゃるのは(その全部ではないでしょうが)ごく素直な信仰と見ることができると考えています。つまりはそこに何も文句をつける必要がないという認識ですね。
建て替えられる前の旧丸ビル(丸ノ内ビルヂング)が戦後復興の象徴とされていた時期は確かにありましたが、その後その象徴的意味はほとんど無くなっていたのと同様、時代が異なれば象徴的意味などそうそうそのまま残存することなどできないものです。
象徴論などをどれでも読めば頭の方で出てくると思うのですが、象徴というのはそれで指し示すものが一意に決まるものではありません。一つの象徴は多義に複数のものを表象することもありますし、何よりその意味の関連は絶対のものではありません。たとえば蛇はギリシア以来「医術」の象徴(<アスクレピオス神)としてありますが、世界各国の歴史文化の中では「知恵と力の象徴」「王権の象徴」(エジプト)や「水」の象徴(インド・チベット)、「闇と悪の象徴」(バビロニア・古代ペルシア)など様々な象徴的意味を持ちます。その脱皮から「不老不死の象徴」という意味も広く認識されるものです。また鷲はアメリカ人にとってアメリカの象徴(>アンクル・サム)でもありますが、パナマ人にとってはパナマの象徴でもあります。そしてある種の石や貝殻は、かつてのヤップ島では富の象徴でした。しかしそれを現代の日本に持ってきても全く「富」を指し示すものではありません。
象徴(シンボル)は、一つの記号で一つの意味を指し示そうとするサインやシグナル(信号)とは異なるものなのです。
承前
靖国神社は現在、いろいろなものの象徴とされているのは事実でしょう。しかしそれはあくまでそれぞれの考えを読み込んだ象徴としての意味です。そこのところはきちんと認識すべきだと思います。
そして私は、それがはっきり軍国主義的なものの象徴だったりしたのは基本的には終戦あたりまでのこととできると思います。なによりそれはかつては国家神道のシステムに組み込まれた特別の神社でしたが、戦後の位置づけは一般の多くの宗教法人の中の一つでしかありません。公式参拝がどうこう言われるのも、突き詰めれば国家神道の復活を危ぶむという一点にかかることです。逆に言えば国家神道という制度が復活しない限り、昔と同じような靖国神社(そしてそのシステム)は蘇りません。首相が参拝したとか、閣僚が参拝したとか、そのぐらいのことで国家神道という国教がもう一度制定されるわけがないのです。
口幅ったい言い方かもしれませんが、小泉氏の靖国参拝に反対される方はそこのところをもう一度考えていただくようお勧めいたします。小泉首相は靖国神社を国のシステムに組み込むことを政治目標にしてはおりません。それはもちろん憲法改正を必要としますし、見るところ9条改定よりもずっと高いハードルです。しかしなおかつ小泉氏は「国が戦死者を追悼して欲しい」という遺族の願いにも応えようとしていたのだと思います。その難しいところを、おそらく「総理大臣小泉純一郎が個人の資格で参拝する」という微妙な形でクリアしようと考えたのだと私には思えます。靖国を国のシステムに入れないという点で法の精神を遵守し、同時に総理大臣の気遣いは戦死者に向いているというメッセージを遺族に発するという、そういう折衷策です。これは国家神道の復古を許すつもりのない私などにもぎりぎり許せるラインだとみえますが…。
また靖国神社を国が護持するのを願う方に考えていただきたいのは、やはり憲法問題です。それを含めて憲法改正を議題に載せると、おそらく改正論議ははるかに長引きますし、多くの国民がそこまで踏み込んで靖国の扱いを変えて欲しいと願っているとは思えません。戦没者慰霊祭で天皇も首相も国の行事としてすべての戦没者に毎年追悼していることを思い出してください。靖国を特別扱いすることを主張すれば、いらぬ邪推を生み、むしろ政治的に利用されてしまうだけでしょう。
それに、中国の孔泉報道官がすごくいいこと(笑)を言っています。aquarellisute@中国という隣人さんの「エース登板。さすがの好投」という記事でのご紹介です。
記者:昨日、神舟6号が帰還し、中国人が国を挙げて祝う時に、小泉首相が靖国神社を参拝したが、中国外交部はどのように考えるか。また、小泉首相の服装は以前と異なり、時間も短く個人としての参拝を強調したかったようだが、中国はこの変化をどう思うか。
孔泉:中国政府の靖国神社に対する立場は非常に明快だ。我々は日本指導者のいかなる時期、いかなる形式であろうが、第二次大戦のA級戦犯が奉られている靖国神社を参拝する事に断固反対である。
小泉首相がどのような方法を選ぼうが、参拝の本質は変えられない。中国は当然強烈な反応をする。
(強調は引用者)
あなたたちのお気持ちは、ちゃんと小泉首相は汲んでいるのだと私にも思えます。形式に過度にこだわるべきときではないと思うのですが、いかがでしょうか?