卵子提供ビジネス

 今年一月の生命倫理法施行以前の話に限定しますが、法的縛りのなかった韓国で、卵子提供やその斡旋がビジネスとして成立していたのは秘密でも何でもない話でした。ですからソウル大の研究で卵子提供者に金銭を渡していたことに対して、何が悪いのかという気持ちもあるかもしれません。今までそこらで当たり前にやられていたことですから。(同法施行以降の情報はまだ少ないのでわかりません)


 東京大学大学院医学系研究科 生命・医療倫理人材養成ユニット*1再生医療に関する基礎資料(←こちら)経由、
 ES細胞:生成成功のソウル大チーム、卵子提供者に金銭 「補償金」1人15万円

 【ソウル共同】体細胞と卵子を融合させたクローン胚(はい)から世界で初めて胚性幹細胞(ES細胞)をつくることに成功した韓国ソウル大チームの研究に協力した同国の病院理事長が21日、ソウルで記者会見し、研究に使用した卵子提供者の女性に「補償金」名目で金銭を渡したことがあったと明らかにした。


 同大には韓国政府の全面的バックアップで世界初のクローンES細胞バンクも設立されたが、卵子の入手過程について倫理的問題が発覚したことは、波紋を広げそうだ。(以下略)
 (毎日新聞 2005年11月22日 東京夕刊)

(※確か数日前にfinalventさんもこのケースを取り上げていた記憶が…)


 今年の3月に東京で開かれた「国際宗教学宗教史会議」のJapanese Bioethics(0308)のパネラーで、日本から少なくない数の不妊夫婦が韓国へ渡り、卵子提供を受けていたという発表をした方がいました。

09J Japanese Bioethics(0308) Organized Panel
Panelist: Fuchigami, K
The Religious View on Ovum Donation: Japanese Couples and Korean Infertility Treatment(00389)


abstract
 生殖技術のあり方をめぐる社会的合意の形成が難航する中、2003年2月以降、四百組を超える日本人不妊夫婦が韓国に赴いて、日本では禁止されている卵子提供を受けており、韓国人ドナーの卵子による子供が日本国内で既に二百人以上誕生している。従来の社会規範を根底から揺るがす生殖技術への批判を受け止め、生殖技術が先行する社会文化的背景を理解した上で、本報告において、長く辛かった不妊治療の果てに、不妊の妻が他人の卵子を貰って自分とは血の繋がらない子供を産み、韓国人ドナーによる卵子提供子を日本人不妊夫婦が我が子として受け入れるに至る経緯を宗教文化史的視点から考察する。(後略)

 発表自体からは、何か「血」の問題を強調していてピントがぼけた感じを受けましたが、事実関係的に考えさせられるものがありました。国際的な交流が進み医療の国境も曖昧になってきている現代では、倫理問題は決して一国の枠内に留まるものではないですね。
 韓国の生命倫理法はどこまで実効あるものなのでしょうか。へたにビジネスが地下にもぐったりしていると危ないと思いますが…。

*1:今日、出入りの本屋さんが映像関係の売り込みで『生命・医療倫理学入門』丸善、DVDビデオ全16巻(\160,000)のパンフをもってやってきておりましたが、奇遇も奇遇、製作にあたっていたのが、この東京大学大学院医学系研究科 生命・医療倫理人材養成ユニットのスタッフでした。ちょっとびっくりしました。