また「格差社会」ですか?

社説:06年を考える ポスト平等社会 「格差拡大」社会を憂う

セーフティーネット拡充を


 「一億総中流」社会からポスト「平等」社会へと変化が始まっている。所得の二極化が進み、上流・下流という呼び方に象徴されるような階層の固定化が進んでいるからだ。


 だが「総中流」社会の後に、どんな社会を目ざすのかが見えない。将来の展望が描けず、所得格差がさらに開いていくのではないか。そういう不安が「不平等感」を増幅させ、ポスト「平等」社会の姿を見えなくさせている。…
毎日新聞 2006年1月5日 東京朝刊)

 何度か同じようなことを書いておりますので、ポイントを絞って少しだけ…


 社会的階層の二極化とその構造化を憂う(というより不安を煽るような)メディア発の話題がまだまだ多いのですが、私はこれに疑念をもっております。この手の話においては、「所得格差の二極化の進行」と「その格差が世代を越えて定着していること」という二つの点が提示され証明されていなければ、私は眉に唾をつけます。


 この社説でも「階層の固定化」という点に限ってみて、その根拠となるデータが示されているようには思えません。上記社説で「所得格差の拡大」ではなく「階層の固定化」についてはっきり触れているのは

 親の所得が低く、低学歴の若者たちがフリーターになるという傾向も指摘されており、これが階層の固定化をもたらしている。

 というところと

 いったんフリーターになると、正社員への門戸は狭い。こうして「フリーター・非正規社員」階層が固定化され、ますます格差社会になっていく。

 というところだけです。これが階層の固定化という「現状の認識」および「社会的趨勢の読み」として果たして十分なものなのでしょうか? むしろ引用の二行目のように、当たり前の事実のような顔をして何も確かめぬまま吹かしているだけなのではありませんか。


 所得格差がある程度広がりつつあるのは、正社員が減り非正規社員が増えているという状況を示すものかもしれません。これはバブル崩壊以降の不況期が長引いたということで説明もできます。しかしその所得格差が次の代に引き継がれ、それが(クラスなどとして)固定化する傾向にあるなどというデータはどこにあるのでしょう?(つまり貧乏な家庭の子は所得が低いままになるというようなデータです)
 世代の交代ということには時間がかかります。これを勘案して世代間で収入格差が固定しているなどというデータが出せているものはないのではないですか? ちょうど25年前はバブルの入り口で(1983年ごろに地価上昇などが目立ってくると思います)、その時点で就業していた人の所得もその後大きく上がったり下がったりで、前の世代の大よその収入レベルなどを確定すること自体も難しく思われます。(それでもデータを見つけられた方はぜひご一報を)


 好不況の変動による収入格差ならば、それを次の世代に持ち越すことになるかどうかについてはっきりしたことは言えません。そして収入格差がある(もしくは広がっている)ということだけでは「煽り」が弱いのでしょう、必ずここには「収入格差という意味での階層の固定化」なる憶測が、おまけのようにつけられているのです。データなど無しに! たいていそれは、教育にかけるお金の多寡が次の世代の学歴を決定するというような曖昧な推測でしかありません(過去日記「日本に階級社会が?」「日本に階層社会は来るの?」あたりも参照ください)。
 

 「親が非正規社員で収入が低いため子供に高等教育の機会を与えることができず、子供は低学歴で低収入に留まる」というようなストーリーは、「親が非正規社員で収入が低かったため、苦労した子供は親を反面教師として立身に情熱的になり、安楽に暮らした子よりも収入が高くなる傾向にある」というような(今思いついた)ストーリーと同程度の確からしさしかないように思います。


 子供たちが一つの基準で一つの目標に向かって一斉にヨーイドンしたという前提では、学歴は確かにある基準になり得るかもしれません。それは「努力する力」もしくは「学力的才能」を証明したということにもなるからです。しかし、それこそ「価値の多様化」を望ましく思っているであろう人たちまで、子供たちが一つの価値を追い求めたという前提の学歴を重視したり、結果得られる人生について「所得」という一元的な価値基準で上下を言ってみたり、もうなんだか私にはわけがわかりません。
 価値観がほんとうに多様化するならば、学歴を求める人、そうでない人、また所得の高低に拘る人、拘らない人は当然出てきていいはずです。ですから、一つの価値基準で社会を憂えたりするというのもちょっと的外れになってくるように思えます。
 いったい価値観の多様化を望む人が多いのかどうなのか、わからないですね〜。
 ということでおしまいです。