ネット右翼論

 愛・蔵太の気ままな日記 1/17日の記事経由で、社会派DS「ネット右翼の定義(改訂版)」を見る機会を得ました。

 Web上で政治的発言を行う人のうち、次の4条件の中の2つ以上を満たす人を「ネット右翼」と勝手に定義しておきます。


1. 中韓を毛嫌いする。具体的には、日本との経済的関係が悪くなっても構わないと思うくらいに毛嫌いする。
2. 自由主義史観(歴史修正主義)に共感できる。具体的には、「新しい教科書をつくる会の主張」に共感できる
3. 人権保護法案には無条件で絶対反対である
4. リベラル派(いわゆるサヨク)による市民運動を毛嫌いする。

 これについてはlovelovedogさんの当該記事のコメント欄にもご意見が寄せられていますが、考えるところがありましたので私も少々。


 基本的には私は「ネット右翼」という実体はないと思っています。絡まれる?方々がそう感じられるほどには一枚岩の勢力などないと言っていいでしょう。上記定義も腑に落ちるという感じではないのですが、それでも考えさせられるところはありました。
 その中で一つのポイントは「経済的関係」という言葉です。取り合わせは奇妙かもしれないのですが、Dead Letter Blogさんが「職業倫理は普遍的か」で紹介されている、ジェイン・ジェイコブス「市場の倫理 統治の倫理」の二つの職業別タイプ倫理というものが頭に浮かびました。

ジェイン・ジェイコブス「市場の倫理 統治の倫理」では倫理には二つの職業別タイプ、統治型(=領土に対する責任に関する)道徳と市場型(=商業とそれに関する財やサービスの生産に関する)道徳があり、それぞれは時に相矛盾するということが主張されている。


市場型の道徳とは具体的には以下。


「暴力を締め出せ」/「自発的に合意せよ」/「正直たれ」/「他人や外国人とも気やすく協力せよ」/「競争せよ」/「契約尊重」/「創意工夫の発揮」/「新奇・発明を取り入れよ」/「効率を高めよ」/「快適と便利さの向上」/「目的のために異説を唱えよ」/「生産的目的に投資せよ」/「勤勉なれ」/「節倹たれ」/「楽観せよ」


一方統治型の道徳はこうなっている。


「取引を避けよ」/「勇敢であれ」/「規律遵守」/「伝統堅持」/「位階尊重」/「忠実たれ」/「復讐せよ」/「目的のためには欺け」/「余暇を豊かに使え」/「見栄を張れ」/「気前よく施せ」/「排他的であれ」/「剛毅たれ」/「運命甘受」/「名誉を尊べ」


商業が成立する、または商業的に成功するためには暴力による収奪が存在しないこと、不正直が相当程度低い水準に抑制されていることが必要だし、身分や共同体の内/外による差別=取引相手に対して不平等な取り扱いがなされていてはならない。新しいものを取り入れ、効率を高めなければ、競争相手に負けてしまう。そして新しいものを取り入れる=改善の努力には「既存のシステムへの異議」が不可欠だし、効率的であるためには「コストの節約」が必要だ。


他方、統治者は、お金に目がくらんではならないし、法などの強制力を担保するためには物理的な力は不可欠だ。物理的な力を行使しうる以上、それは統制と規律がいきわたっていなければならないし、その為には上司と部下の上下関係はハッキリしていなければならない。さらに敵味方関係なく=差別せず取り扱うということは出来ないし、時には共同体内に生じた報復感情も代替しなければならない…等々。


 中国や韓国に対する倫理的態度の規範について、dslenderさんの頭にあるのは「市場型の道徳」、そして彼がネット右翼と定義する人たちの多くにあるのは「統治型の道徳」ということかもしれないと、そう思ったのです。
 実際に両者が重なっているかどうか、これにはもちろん検討の要ありでしょうが、少なくとも「経済関係を壊す」のはやりすぎ(=不正義)であると考えるような立場と、「経済関係より大事なもの」を守るべき(=正義)であると考えるような立場の二つがあることははっきりしているように思えますし、異なった倫理が並立しているというのは確かでしょう。


 どちらもそれなりに説得力がありそうな二つの倫理が向き合っているのだと認識すれば、もしかしたら相互理解の端緒になるかもしれません。互いに自分の倫理が唯一無二のものと思うよりは、そのほうが建設的かなとも思えたのでした…。(私の立場については、たとえば「9/8の日記 東浩紀氏の『「嫌韓流」の自己満足』について 」などに書かせていただいております。)


 dslenderさんの個人的な定義にいちゃもんをつけるつもりもありませんが、こちらに少し考えさせてくださったという点で感謝です。
(勝手な引用をしましたが、Dead Letter Blogさんの元記事、そしてそれが言及するベイエリア在住町山智浩アメリカ日記さんの2006-01-14 「ホテル・ルワンダ」と「帰ってきたウルトラマン」と、lazarus_longさん@愛に史観をの■ホテルルワンダと職業倫理の記事の遣り取りも、本来とても興味深いものです。ぜひご一読をお勧めします)