裏切らぬユダ

ユダ裏切ってない?1700年前の「福音書」写本解読

 米国の科学教育団体「ナショナルジオグラフィック協会」は6日、1700年前の幻の「ユダの福音書」の写本を解読したと発表した。
 イエス・キリストの弟子ユダがローマの官憲に師を引き渡したのは、イエスの言いつけに従ったからとの内容が記されていたという。


 解読したロドルフ・カッセル元ジュネーブ大学教授(文献学)は「真実ならば、ユダの行為は裏切りでないことになる」としており、内容や解釈について世界的に大きな論争を巻き起こしそうだ。
 13枚のパピルス古代エジプト語(コプト語)で書かれたユダの福音書は、「過ぎ越しの祭りが始まる3日前、イスカリオテのユダとの1週間の対話でイエスが語った秘密の啓示」で始まる。イエスは、ほかの弟子とは違い唯一、教えを正しく理解していたとユダを褒め、「お前は、真の私を包むこの肉体を犠牲とし、すべての弟子たちを超える存在になる」と、自らを官憲へ引き渡すよう指示したという。


 同文書は3〜4世紀に書かれた写本で、1970年代にエジプトで発見され、現在はスイスの古美術財団で管理されている。同協会が資金援助し、カッセル元教授らが5年間かけて修復、内容を分析した。


 福音書はイエスの弟子たちによる師の言行録で、実際は伝承などをもとに後世作られたものと見られている。うち新約聖書に載っているのは、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4人分だけ。ユダの福音書は、2世紀に異端の禁書として文献に出てくるが、実物の内容が明らかになったのは初めて。
 詳細は、28日発売の「ナショナルジオグラフィック日本版」に掲載される。
(読売新聞) - 4月7日3時13分更新

 いわゆる外典福音書の一つの内容が明らかになったというのは凄いことだと思いますが、それは史実レベルで何か新しいことが出てきたということではなく、ユダの汚名返上とかいうこととは全くつながらないわけです。それを敢えてちょっと(ジャーナリズムが)ミスリードしているのかなとも思います。


 コプト語で書かれているという時点ですでに共観福音書とは別系列であろうと推測されますが、この新しい文章が宗教的に今新たに何かを作り出すかと言われれば、それもかなり難しいでしょう。


 荒井献編『新約聖書外典講談社、の惹句

 「新約聖書外典」とは、現行の新約聖書の二十七の文書が正典として成立する過程において、「アポクリファ」として排除され、正典として採用されなかった諸文書をいう。
 古代におけるキリスト教大衆文学とグノーシス的異端文学の間に位置するこれらの文書は、当時の大衆によって、正典よりもむしろ好んで読まれ、しばしば古代・中世から近代に至る西欧の芸術作品のモチーフともなってきた。

追記

 ナショナルジオグラフィック日本版のサイト

 古代の文書『ユダの福音書』の鑑定と翻訳
(米ナショナル ジオグラフィック協会発、2006年4月6日付プレスリリースの全訳)


 写本が公開されるまでの経緯


 コプト学者ロドルフ・カッセル博士に聞く

ロドルフ・カッセル博士(79歳)は、コプト語の世界的な権威であり、ナグ・ハマディ文書を翻訳したことでも知られています。今回はリーダーとして『ユダの福音書』の復元及び翻訳を担当しました。カッセル博士はスイスのジュネーブ大学教授を務めた後、聖職者として活動を続けると同時に、1965年からは南エジプトのコプト考古学スイス・ミッションの考古学発掘主任も務めています。スイスのイベルドン・レ・バン在住。


 などの記述があります。