▲8三とクローバー
6畳プラス台所3畳フロなし
将棋会館まで電車で20分
築25年 家賃3万8千円
音はつつぬけ 全部屋奨励会会員
朝日が眩しい東向き
真:おぅー何だ?
竹:真山初段(せんぱーい)、今 腹いっぱいすか? コロッケあるんすけど…
奨励会に入って
東京に出てきて
千駄ヶ谷の将棋会館のまわりが都会なのにビックリして
探した下宿がみんな高いのにビックリして
銭湯の値段にビックリして
プロ棋士になる門が狭いのにビックリして
…
竹:先生、はぐちゃんの棋風ってみたコトないんすけど
花:おお いいぞ 隣で打ってる 集中してるからそっとな
竹:一体どんな 将棋打ってるんだろう
真:(どれどれ)
竹・真:超絶打ちまわしーっ!?
は:ピシッ ピシッ
花:すごい集中力だろ? こうなるともうお茶も飲まないんだよ
花:はぐの打つ局を見るたび毎回僕も驚くんだ。 どの駒もいまにも動き出しそうなんだよ
「一度はぐになって はぐの目で対局してみたい」
どんな風に手が見えるんだろう―ってね
…
竹:おーい はぐちゃーん 何指そうとしてるの? …4四銀?
は:うん ほとんど読みはおわったの あとはこの展開だけなの
修ちゃんに がんばってって この展開で新手を見つけるの
竹:よしっ オレも手伝うよ
は:ホント?
…
―いったい
将棋って何なんだ?
どうしてボクら
ずっと笑っているだけでいられない?
小さい頃 僕には香車が 何の為にあるのか わからなかった
遠くまで ただ利きが通るだけで
一度進むと戻れなくなる
飛車に角行
わくわくする大駒にしか 目がいかなかった
でも
今なら
なんとなく 解るような気がする
この 香車という駒は
好きな人と一緒に
まっすぐ
盤面を突き進んでゆくために
あるのだ
多分
「少しこわいね」
なんて 言いながら…