美しい国

DailyPortal Z 甘い食卓 なんて記事を見ましたが(洒落でしょうけど)、「甘い=美味しい」なんだろうから砂糖で甘くした食事を作ってみる…というのは無謀な企てでした。


 知ってる人には今さら感が漂うでしょうが為念。古語の形容詞「あまし」はそれ自体が「うまい」とか「美味である」とかいう意味を持っていまして、「甘みがある」という意味に限定されていません(それもありますが)。今でも塩気の薄い(足りない)味付けに「あまい」とか言いますよね。これもまた古語にも存在した用法で、ここから「切れ味がわるい」とか「ゆるい、しっかりしない」などの意味も派生しているのです。まあ「脇があまい」とか言って本当に脇の下が甘味を生じているわけもないのですからね。


 逆に「うまし」の方にも「美し」の他に「甘し」の漢字があてられていまして、この語はシク活用では「味が良い」という今と同じ意味を持ちますが(ex.うましきこと)、ク活用ではむしろ「立派だ」とか「すばらしい」という意味が主です(ex.うまし道)。こちらで「おいしい」という意味を取る用例はほとんどないと言ってもいいです。
 うまいタイミングだ、というような「都合・具合のいい」という意味は前者、シク活用の方ですね。そして後者、ク活用の方では

 …美し(うまし)国ぞ、蜻蛉(あきづ)島やまとの国は
万葉集 二)

 という有名な用例がありまして、例の『美しい国』の元ネタとなっております。


 ちなみに古語の「うつくし(美し)」にも「きれいだ」「立派だ」という用例はありますが、使われ方として多いのは「愛し」という漢字をあてて、幼い者や小さいものに対して「かわいらしい」「愛らしい」「いとしい」という感情、そして肉親に対しての「大好きだ」「恋しい」という感情を向ける意味と考えた方が良いです。
 つまり「うつくし」という語は「萌え」気分と言ってほとんど差し支えないでしょう(笑)


 この伝で言いますと、安倍総理が目指す「美しい国」とは「萌える国」となりますが、さてどうなのでしょうか…。

  高市の岡本の宮に天の下知らしめす天皇の代(息長足日広額天皇舒明天皇)
  天皇、香具山に登りて国を望みたまふ時の御製歌

 大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は 鴎立ち立つ 美し国ぞ 蜻蛉島 大和の国は