大学入試問題共有化

 まだあまり話題になっていないようですが、岐阜大学学長の黒木登志夫氏を中心にして大学入試の過去問を共有化しようとする動きが広まっています。

 過去の入試に出した問題(過去問)を相互利用する―。
 昨年10月27日、岐阜大を中心に、私立大の順天堂大、公立大の名古屋市立大、国立大のお茶の水女子大など国公私立17大学が、過去問を自由に利用できる「入試過去問題活用宣言」を共同提案した。2008年度の入試から活用したいと考えている。
 大学入試が始まって以来の初の試みに挑んだのは、岐阜大の黒木登志夫学長。過去問との類似を避けるための難問や奇問が少なくなり良問が増えれば、大学と受験生の双方にメリットがあるはずだと訴える。今後は、他の大学にも参加を呼びかけ、4月には参加校を公表する予定。
(2007/2・3 学研『進学情報』、p.2)

 今年に入ってからこの話を伺ったのですが、最初に思ったのはどうしてそういう試みが必要なのかよくわからないという疑問です。まず私の頭に浮かんだのはたとえば「現代文」などや「英語」などの入試問題でして、題材に採り上げる文章が枯渇するということも考え難いことですし、たとえ同じ文章からの出題にせよ採り上げる箇所やどこに焦点をあてるかの題意のところでいくらでもバリエーションはでてくるだろうということでした。


 しかしよくよく話を聞いてみるとこの黒木学長は医学系の方で、医師免許などの国家試験―大量の問題と答えを一箇所にプールし、そこから出題するという形式―が頭にあり、その顰に倣えば毎年問題を作る手間も省けると考えられたそうで、それならば発想も理解できるように感じました。
 確かに資格試験等の毎年ほぼ決まった知識を問う試験の形式ならば年を追うごとに新たな問題を作るのに頭が痛くなってきそうですし、大学審議会(1987〜2000)による大学設置基準の大綱化以降、従来の教養課程が縮小・解体される過程で入試問題を担当する教員がどんどん減ってきている大学側にも大きなメリットがありそうです*1


 今の入試では、たとえばどなたかの文章を引用して作問する場合でも「事後許諾」が認められています。著作権者に先に知らせてしまっては、そこから当該の問題に関する情報が流出してしまうおそれがあるからです。しかしこの過去問題共有の試みでは出題(設問)自体も共有化が唱えられておりまして、明らかにそこの著作権にも引っかかろうというもの。そこで黒木氏は発想の転換をして、過去問自体を「大学コミュニティ」のような共同体の共有財産ということにしてしまおうと考えられたのですね。
 それで全国の大学に呼びかけ、宣言に賛同してもらうか、あるいは過去問を提供してもよいという「提供大学」として参加して欲しいと声をあげられているわけです。


 過去問が公開された形になれば、それを憶えてしまうだけで受験生は合格してしまう(記憶力の多寡によって合否が決まってくる)のではないかということが危惧されますが、黒木氏はプールサイズを大きくさえすればいくら学生たちが過去問を勉強しても影響はほとんど無しにできるだろうと、医師国家試験の現行スタイルから自信をお持ちのようです。


 また、この宣言の賛同大学になろうが提供大学になろうが過去問の使用が義務付けられているわけではなく、たまたま入試問題がどこかの過去問と重なって(似て)しまうことにプレッシャーを感じなくてよいことになりますから、大学にとってメリットも多そうです。結構早いうちに過半の大学が参加もしくは協力をするのではないでしょうか。


 ただ各大学や設問担当のプライドがそれを許すかという点などから、この形式が馴染まない科目ではいつまで経っても過去問は使われないのではないかと想像されるのですが…

*1:私は大綱化自体には批判的な意見をもっていますが、ここではその話が主題ではありませんので…