高校の「道徳」授業

 茨城県では今年から高等学校での「道徳」を必修化したそうです。今日は一般の人(?もしかしたら父兄)にその公開授業が行なわれたと、12時の関東ローカルのNHKニュースで流れていました(NHK茨城県のニュースでは現時点でヘッドラインにありませんで紹介されています↓下の追記に)。画面で紹介されたのは水戸商業高校の授業風景。それではと水戸商のサイトを訪れてもカリキュラムに「道徳」はありません。あれと思って検索すると、「道徳:茨城県教委、高校で必修化 1年生対象に今年度から」という毎日新聞の記事がひっかかり、その中で「授業は1年生対象で年間35時間。総合学習の時間を利用する。」という記述があって、そういうことかとわかったのでした。

 茨城県教委は今年度から、県立高校106校全校で「道徳」を必修化した。都道府県内の全公立高校に義務付けるのは全国で初。「ほぼ全員が高校に進学する時代。確固たる価値観と、社会に参画して支える意識を持たせたい」と03年度から必修化を検討していた。政府の教育再生会議の第1分科会(学校教育)は先月、道徳教育を小中高校を通じた「正式な教科」として第2次報告に盛り込むことで合意しており、これを先取りした形。

 県教委によると、従来の徳育教育と区別するため、教科名は「道徳」とした。

生徒に価値観を押し付けるのではなく、自ら考え、自分の意見を持つことを目指す。評価は絶対評価ではなく、担当教諭が生徒の心の成長を文章記述で表し、単位を認定する。

 県教委は03年度から道徳教育研究推進校を指定、指導法や教材を研究してテキストを作った。ユダヤ人を助けた元外交官の故杉原千畝氏の妻幸子さんの著書「六千人の命のビザ」や、米国での人種差別撤廃に取り組んだキング牧師の演説を引用したほか、オリジナルの文章など35編の話題を掲載している。テキストの使用、不使用は各校に任せる。
 (前掲記事より抜粋)

 ニュースでは何かおしべとめしべの図の画面が出てきて、なにか違うものをやるのではと一瞬思いましたが、「植物の受粉の際には昆虫とか風とかの助けを借りる。そういう他者の力を借りてはじめてできることがあるということを、自分の身に置き換えて考えましょう」という授業だったそうです。
 生徒の声として「普段食べる食事の内容も見知らぬ他者のおかげで成り立っているものだと思った」というような女子生徒のインタビューも最後に挟まれていました。


 実際に授業を見たわけではありませんので、ここからはちょっとだけ漠然とした感想を。
 「他者」という言葉ではなく、「他の人」ぐらいにすればいいのにとまず思いました。その自分の食べるものを作ってくれた人は、そう考えるだけですでに関わりのある人であり、何をするかわからない他者ではありません。もっとも、自分の食べる物に毒性のある偽塩を使ったり、人体に害のある化学物質を平気で混ぜてきたりする者がいるかもしれないという意味では「他者」でもあるのですが…。
 それから、高校生ぐらいの子に「こういう素晴らしい人がいます」的な授業をしても、それを素直に取ってくれる人はどのくらいいるのかなとも思いました。生意気盛りで、ちょっと屈折した人格も出てくる青年期に正攻法で立ち向かうのは難しいんじゃないかという(余計な)感想です。
 そして、これを教えることになる教師の苦労は大変だろうなと。担任が授業するのでしょうか。生徒一人一人の心に目を配り、それを三十人も四十人も抱えるのは、まともにやるならば相当大きな負担増ではないかと思います。研修でもやられたのでしょうか。
 必ずしも無駄とは思いませんし、パイロットケースのようなものであろうとも思いますが、無難な感じの教科書でどこまで成果があるのか、教員の対応はどうなるのか、興味も持ちますし続報を待ちたいと感じました。

追記

 NHK茨城のニュースに次のような紹介が乗っていました。

高校の道徳の授業公開
 今年度から県立高校で必修になった道徳の授業が19日、水戸市の高校で保護者などに公開されました。
 茨城県では高校生に自分自身の生き方を見直してもらおうと、全国に先駆けて今年度からすべての県立高校で道徳を必修にし、週1時間、1年間で35時間の授業を行うことにしています。
 19日は水戸市の県立水戸商業高校で道徳の授業が、保護者や教育委員会の関係者に公開されました。
 このうち1年生の教室では、教師が茨城県教育委員会が作った道徳のテキストを使って授業を行い、花が受粉するには虫や鳥、風などの力が必要であることを例にあげて生命が見知らぬ他者の力を借りて成り立っていることを教えました。
 そして教師が「このことを自分に置き換えて考えてみてください」と問いかけると、生徒たちは「普段自分が食べている食べ物も見知らぬ人が作ったものであり、快適な生活はほかの人の力を借りて成り立っていると思う」とか「自分も優しさと思いやりを持ってほかの人を支えていきたい」などと答えていました。
 授業を受けた生徒は「道徳は他人とのかかわりや自分自身を見つめ直すきっかけとなる大事な教科だと思います」と話していました。