有田芳生氏のスタンスが読めない話

 参院選出馬表明があってから、氏がどういう政治的スタンスをお持ちなのかあちこち覗いてみましたが、いまひとつよくわからないというのが正直なところです。先日の都知事選のあたりでは、その浅野氏に批判的なスタンスの故か有田氏に共産党の走狗みたいな悪罵も投げつけられていましたが、そういう単純な話ではないだろうと思えていました。
 先日氏は『有田芳生の酔醒漫録』で「参議院選挙出馬表明の動機」という記事を書かれています。先の戦争に対する何らかの意見・情熱が出馬につながったようではあるのですが、ここでもあまりはっきりとは言明されていません。

「この2年、木村久夫さんを取材しました。彼は、日本の敗戦後にシンガポールチャンギー刑務所で絞首刑にされたBC級戦犯。捕虜虐待の罪ですが、彼の意思ではなかった。高齢の関係者を尋ね歩くとみな言うんです。敗戦後は希望を持っていた、こんな国になるなんて思ってなかった、って」「確かに自分も、この国の異常を実感している。田中さんに『社会貢献しよう』と誘われ、木村さんの遺書に背中を押された。絞首刑を前にした28歳の木村さんは遺書に、絶望ではなく希望を書いた。新しい日本を、若者たちに託す、と。生きているぼくは何かしなければならない、と思いました」。

 この四月にも数回にわたって「特攻隊の事実と真実」というルポをブログ記事にされていたり、何か拘っていらっしゃるのはわかります。映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」にはかなり批判的でもあるようです。でも4/29に石原慎太郎都知事とインタビューして語られるところからすれば(「石原慎太郎に聞いた」)紋切り型の戦争批判でもなさそうなのです。

 わたしは政治家や指導者の責任を聞いた。昭和19年7月にサイパン玉砕、8月にグアム、テニアン玉砕。この時点で戦争をやめていれば、特攻攻撃もなければ、東京?大阪大空襲、沖縄戦、広島、長崎への原爆投下はなかった。「どうですか」と問うと、「そうですよ」と言って強い口調になった。「東条英機だけは絶対に許せないんだ」。「戦陣訓」を作って捕虜になるなという教えを徹底したのは国際法にも違反していたからだ。戦前の日本は天皇を神格化して、いまの北朝鮮よりもファナティックだったとも語った。インタビューが終わり、椅子から立ち上がったとき、頭を下げて「ありがとうございました」と言われたときには驚いた。石原さんの乱暴な発言やタカ派的国家観には違和感を感じるけれど、人間とは多面体だなと思うのだった。

 そこらへんについては、その後の「東條的指導者を忌避する」という記事など数本で、石原氏に対する共感などもちらと見せているところがあります。

石原慎太郎都知事東条英機だけは許せないと語ったことを伝えたところ、面白い話を聞いた。渡邊恒雄さんも同じことを言っているというのだ。この日本に東条英機のような指導者を二度と生まないことが必要だというのだ。石原都知事や渡邊さんとは国家観が異なるとはいえ、こうした認識を共有することは大事なこと。存在の根っこの部分での共感において政治的立場などは超越できるはずなのだ。「おかしいことはおかしい」「いいことはいい」。人間的基準はそもそも素朴で単純なのだ。

 さらにかつて宗教ジャーナリストを掲げておられた有田氏らしく、話題は時に統一協会のあたりに飛ぶのですが、「石原慎太郎と統一教会」では石原氏が統一協会と関わっているようなことは否定されているようですし、なかなか複雑に状況を捉えておられるようです。


 そこらで思い出すのが、2006年まで続けられていた『酔醒漫録』のバックナンバーでの安倍氏統一協会との関係を否定されていた一節です。(リンク

 6月16日(金)の記事より
 … 安倍晋三官房長官などが統一教会系の「天宙平和連合(UPF)祖国郷土還元日本大会」に祝電を送ったことが話題となっている。総裁選前に、これを政治問題化させようという動きもあるが、過大評価である。安倍氏からの祝電を報じたのは韓国の「世界日報」5月14日付。統一教会系の新聞である。大会は5月後半に国内12か所で開かれており、13日に福岡で行われた集会で安倍氏の祝電が披露された。この「天宙平和連合祖国郷土還元日本大会」は、統一教会文鮮明教祖と妻の韓鶴子が共同総裁で、合同結婚式の儀式も行われている。霊感商法を行い、最高裁でも違法と認定された合同結婚式を催す統一教会は、反社会的集団だ。その集会で本人が挨拶したのなら国会でも問題となるだろう。しかし、祝電となると問題はまた違う。国会議員の地元事務所が依頼を受けたならば、祝電を送るかどうかはそこで判断するのが通例だ。結婚式や葬式への電報とほとんど同じ水準の判断だろう。祝電を送った保岡興治元法相の事務所が「出席依頼があったので電報を送った」というレベルのことだ。


 さらにいえば自分たちの集会に権威を付けたいときには勝手に政治家を装って祝電を送ることさえ行うのが統一教会である。ましてやもし仮に統一教会信者が私設秘書として働いていれば、祝電を送るぐらいは簡単なこと。わたしは安倍晋三氏と統一教会問題で会話を交わしたことがある。安倍氏は言った。「北朝鮮統一教会の関係はどうなっていますか」。わたしは北朝鮮金正日体制と統一教会とが深い関係にあることを伝えた。安倍氏は「そうですよね」とうなずいた。「実は」と彼は統一教会がさかんに接触し、面会を求めてくると語った。「わたしは会わないですよ」と安倍氏は言った。北朝鮮に強硬な立場を取り、しかも有力な総裁候補である安倍氏が、自らの判断であえてこの時期に統一教会系の集会に祝電を打つことはないだろう。


 6月18日(日)の記事より
… 安倍晋三官房長官の父である晋太郎氏は、「勝共推進議員」であった。これは共産主義に勝つことを推進するための集まりで、国会議員105人が賛同していた(「思想新聞」90年3月25日付)。統一教会の友好組織である国際勝共連合からすれば「神側の議員」ということになる。そこに名前を連ねれば選挙のときに信者たちが熱心に活動してくれたのだ。この年2月18日に行われた総選挙で自民党は予想外の健闘で275議席を獲得、追加公認をふくめて286議席となり単独過半数を確保している。ちなみに社会党は136議席オウム真理教真理党として25人を立候補させ、惨敗したのもこの選挙戦であった。投票日から1か月ほど経った3月13日、国会に近いキャピトル東京ホテルで「勝共推進議員の集い」が行われた。ここには中曽根康弘元首相、安倍晋太郎元幹事長などが出席している。統一教会安倍晋太郎氏を総理にすることを政治目標にしていた時期のことだ。


 統一教会と日本の保守政治家との結びつきの歴史は古い。1964年に東京都の認証を得て宗教法人となった統一教会は、68年に岸信介元首相などの協力を得て国際勝共連合を結成。70年4月9日には渋谷の松濤にある本部で、4000人の信者を前に岸信介氏が講演を行い、激励を行ったこともある。ところが統一教会には文鮮明教祖の前に天皇役がひざまずく儀式があることが暴露され、さらには霊感商法を行っていたことが社会的に糾弾されることで、保守系議員も一定の距離を置かざるをえなくなってきた。岸信介安倍晋太郎安倍晋三と三代につらなる関係を保ちたいがために、統一教会安倍晋三氏に何度も面会を申し入れている。ところが安倍氏からすれば、北朝鮮を財政的に支えている統一教会を認めるわけにはいかない。しかし、統一教会側としては対北朝鮮へのシグナルとして、さらには信者たちへのメッセージとして「次期総理」と目されている安倍晋三官房長官と交流があるのだと示す必要があった。日本で発行されている機関紙「中和新聞」ではなく、韓国の「世界日報」で報じられた意味はそこにある。


 これまでにも統一教会の本音は日本の機関誌紙ではなく、韓国の「統一世界」などで表明されてきた経緯がある。たとえば「中曽根首相はわたしにひれ伏した」といった文鮮明教祖の講演内容は、日本で訳すときに伏せられた。日本で政治問題化させたくないという謀略的判断である。安倍晋三官房長官の祝電が「天宙平和連合(UPF)祖国郷土還元日本大会」に送られたのも、事務所や地元秘書レベルの判断だったのだろう。あるいは信者が勝手に送った可能性さえある。統一教会にとっては、あくまでも安倍晋三氏を取り込みたいのだ。

 単純に自民=悪とか安倍=悪とかいった構図で何かを語ろうとしているのではないと受け取れます。でもそれではご自身は何を目指すのかについては、今ひとつわからない感じもするのです。
 有田氏もまた「多面体」ということでしょうか。わからない故に魅力的という言い方もできますが、私にはまだ判断はできません。


※芳夫⇒芳生 誤字を直しました。お名前の間違いは大変失礼なもので、申し訳ないです*1(15:47)

*1:以前にも管直人菅直人のおおぼけあり。