「世界征服」を企むものの意図

 岡田斗司夫『「世界征服」は可能か?』ちくまプリマー新書061、を読みました。こういう「(一見)くだらないこと」に拘って真面目に考えてみる系の本は結構好きで、面白く読ませていただいたのですが、ちょっとだけ不粋に突っ込んでみます。


 この本の導入は、『ふしぎの海のナディア』制作の現場で庵野秀明氏が「ところで、このガーゴイルって秘密結社は、なんで世界征服なんかしたいんでしょうね?」とつぶやくのを岡田氏が耳にとめるところから始まります。そして、

「世界征服って、本当に可能なんだろうか?」
「悪の帝国の手段や目的はなんだろう?」
「世界征服って悪いことだろうか? そもそも『悪』ってなんだろうか?」
 あの日から十五年たった今でも、私はときどき考え込んでしまうのです。

 という具合に執筆の動機や意図を語られます。そしてさらにそこから

 いったい、サウザーもショッカーも、ちゃんとマジメに「世界征服したい」と考えているのでしょうか? 目先の快楽や思いつきに振り回されて、自分の野望を見失っていないか、いちどちゃんと説教して差し上げたいぐらいです。

 こういう混乱がおきるのは、「世界征服を企む組織」が、征服したあと何がしたいか、はっきりしていないからです。

 云々と続けられ、氏の「世界征服の目的」の四分類とかに繋げていかれるわけですが、言ってみればこういうのは「楽屋裏」の発想。メタなところから物語全体を鳥瞰する(立場の)人の考え方が強く出ているところだと思います。
 もちろんどんどん趣味化したおたく層では、こういう発想を素直に受け止める人も多いのでしょう。でもやっぱり私は思うんです。

 得体の知れない組織が何か悪いことをしているようなのが一番怖い。
 何を考えているのかもわからず、全体像がつかめない「他者」だから怖い。

 ということを。


 先日読んだ『屍鬼』でも、屍鬼たちの目的、考え、その哀しい性などが描写されて以降のあの本はホラーではなくなっています。相手の立場がわかるといいましょうか「合理的に理解できる」相手は、時に憎悪や嫌悪の対象にこそなれ、恐怖感は減少してしまうものだということです。
 合理的・合目的的に「世界征服」を考えてみるというお遊びには、だからこんなことを言うのが不粋でしかないかもですが、ショッカーが怖いのは「本当は何を考えているのかわからない」他者性を子供が感じたからではなかったのかなあと思ったりするのです。


 ストーリーの展開の最初の頃に「悪」だの「敵」だのが「他者」として現れてくるのがキャッチーなのです。そしてその背景が最終回に向けて露呈してきたあたりでは、それは物語としての質を変えるのだと思います。その良し悪しは作品ごとに違いますが、少なくとも私は

 ぼくたちに必要なのは殺しあうことではなかった。愛し合うことだったんだ…
 (古代進

 という具合に「相手の立場」を(勝ってから)理解し、後悔してみせるというのはあまり好きではなかったです。そんな自分勝手な…と。


 確かに面白い試みで、決して買ったことを後悔するのではないですが、怖さを醸し出す「他者性」を考慮した物語論というものも読んでみたいと思いました。やはり私には「世界征服を企むものの意図」はわからない方が怖いもの(面白いもの)だという感じの方が強いですね。裏方ではなく、享受する側の見方ですが。

追加 ガンダム00による世界征服

 この間ちょっと触れたガンダム00ですが、この岡田氏の本を読みながらにやりとさせられたところがあったことを思い出しました。公式サイトの「機動戦士ガンダム00(あらすじ)」では

西暦2307年


化石燃料は枯渇したが、人類はそれに変わる新たなエネルギーを手に入れていた。3本の巨大な軌道エレベーターと、それに伴う大規模な太陽光発電システム。しかし、このシステムの恩恵を得られるのは、一部の大国とその同盟国だけだった。
(中略)
そんな終わりのない戦いの世界で、「武力による戦争の根絶」を掲げる私設武装組織が現れる。モビルスーツガンダム」を所有する彼らの名は、ソレスタルビーイング


ガンダムによる全戦争行為への武力介入がはじまる。

 このようなアウトラインが書かれていますが、『「世界征服」は可能か?』には次のような記述があって、これは…と思っていたのです。

第3章 世界征服の手順
1、第一段階 目的設定


 まずは、「目的」を決めます。
 欲しいのはお金なのか、人類を支配することなのか、人類を絶滅させることなのか、争いのない平和な世界をつくることなのか。
「争いのない平和な世界」と世界征服は、正反対の気もしますが、これだって征服の目的になることができます。
 もう二度と争いが起こらないように、世界中の軍隊を潰す。みんながケンカをしないようにみんなをどついて回るみたいなやり方ですが、征服者が圧倒的に強い場合、有効かもしれません。話し合って解決が不可能ならば、力で押さえ込もうという、それなりに有効な方法の一つです。「アメリカ的」とも言いますけど。(p.79)

 つまりガンダムの新作は、ガンダムによる世界征服を描いたものだったと…