文通

 ちょっといまさら感もありますが、新海誠さんの『秒速5センチメートル』見ました。DVDを購入したんです。
 もどかしい交流とか素直になれない気持とかすれ違うめぐり合わせとか、若いうちの恋だの何だのの苦しさを直に思い出させるようなストレートな作品(群)でした。三本のうち私は最初の「桜花抄」にもっとも惹かれましたが、やはりそういう人が多いのかと思います。お話としてはまとまりが一番あります。破綻がないから…というのでもなくて、素直に入り込めるといいますか、これはこれで一つの世界と納得させるだけの厚みがあるような気がしました。
 他の二本も決して悪いわけではないのですが、連作というところを抜けば、鋭利に切り取り過ぎた世界といいましょうか、ちょっと受けるとしてもマニアックに受ける…見る人を選ぶものというような気がしました。私は一つ一つを別の物語として受け取ろうとしていましたし。


 ただ、三作を貫いて一つ気にかかったのは「手紙」のやり取り、「メール」のやり取りといったところでして、これにはちょっと自分の昔のことを思い出していたという個人的なものが関わってきます。こっ恥ずかしいことではありますが、中学二年の時から大学入学に至るまで、なんとなく続けていた文通があったんです(赤面)。


 どうしてあれが続いていたか、そしてどうして終わりを迎えたか、今となってはよくわかりません。結局、一度も逢いませんでしたし。互いに年頃の(同い歳の)異性ということではあったのですが…。
 始まりはドラマティックでも何でもなく、うちの中学校が隣県の中学校と対外交流をしていて、私がちょうど中二で生徒会の渉外局というところにいて、様々な交流案の一つとして「文通」をしてみようという企画に率先して乗ったからでした。それははっきり憶えています。(時代を感じさせますね。もう二十数年前、下手をすると三十年も前のことです)
 もともと隣県どうしで始めたやり取りでもありましたし、イナカの子どうしのことですからちょっと会おうなどとはもとから発想がなかったのかもしれません。一度だけ写真の交換はしました。中学のうちですね。天然パーマの素朴そうな子が写ってました。相手は私のことをどう思ったのかはわかりません憶えていません。


 一月に信が一往復ぐらい。下手をすると間が二月ぐらい空いて、言い訳と謝罪の言葉が往復するといったぐらいの感じでした。近況とか、何かイベント系の感想が主で、不思議に読んだ本とか見た映画、テレビの話は無かったですね。私たちには貴樹と明里のような「似たもの」感は醸成されなかったんだと思います。好みがあまりに違っていたようでしたし。それに異性ということで、経験に欠けた二人(のオクテ)には互いに測りかねるところがあったのだと思います。それでも続けたというのは、他により近しい異性が現れなかったからではないかと…(今、その寂しさに気づいて愕然 呵呵)。


 高校を卒業するあたりで、あちらは就職を選び、私は進学を選んだのですが落ちて浪人。その時は何となく励ましあうような感じで、最後のやり取りが何度かあったのです。ただ、おそらく次の年に私が合格したあとは、一度か二度の手紙でいつの間にか終わってしまっていました。私が悪かったんでしょうか?そうかもしれません。そうでなかったかもしれません。でも何れにせよ、大学に受かったことで(私は関西へ)というように今まで以上に距離的にも離れてしまいましたし、あるいは心理的にもっと間が空いてしまったのかもしれません。続けようがなかったんじゃないかと…


 少なくともこの作品は、こういう凄く恥ずかしい思い出を呼び起こして、それで勢いで書いてしまう程度には私にインパクトを与えてくれるものでした(笑) 今書いておかなければ、おそらく永久に没になってしまいそうな出来事だと思えたので、恥ずかしながら書き留めておきます。ずっと前のただの昔話でした。