引越し顛末 その三

 9月末日が不動産屋さん立合いの引渡しの日でした。当日の朝まであれやこれや清掃が続きましたが、一番時間をとったのが実は庭の雑草抜きや植込みの剪定です。二年目に一度業者さんを入れて剪定などをしてもらいました(その時は飛び込みの業者さんで、一人の人が一日がかりで…三万円ほどで済みました)が、今年は退去も決まっているし「自分でやろう」と思っていたのでした。素人仕事ではありますが、小奇麗に見えるぐらいにはできたかなと…
 そして、雨どいの排水が詰まっていることとか、客間に9月の台風の時雨漏りがあったこととか、トイレの水が時々流れっぱなしになってしまうこととか、「申し送りの問題点」みたいなことを列挙したメモを用意して不動産屋さんを待っていたのです。ちょうど雨がしとしと降っている日でした。
 不動産屋さんの人が1時に来られて、庭とか、中を一部屋一部屋説明して回るときに、実は何となく目頭が熱くなったのでしたが、まあそれは気づかれないようにしててきぱき話していきました。不動産屋さんは、ほとんど文句がつけられないぐらいですねと世辞を言ってくれました。ただ、これですぐにでもお金をお返ししたいぐらいなんですが…大家さんが数日後に来て最終確認をするということなので…と申し訳無さそうにおっしゃって、「どうぞどうぞ」と私は微笑んで、鍵を二本お渡しして引渡しは終わりました。


 その日から新居の方での格闘の日々が始まりました。最終的な書棚や机などの配置を決め、一冊一冊本やらなにやらを収納していきます。一気にごちゃっと入れてしまうと「仮八年」の諺?みたいにそのままになりそうで、結構こだわりながらジャンル別、大きさ別に工夫しました。ただ、すべてすっきりちゃんと収納してしまっても「これから増える分」がいい加減になりそうで、いくらかのブツは段ボールなどでお蔵入りにして、収納もまだ空きがあるようにするのがちょっと時間がかかったです。並行して衣料などの仕分けや台所の整理なども行ないましたが、新居は広い台所に作り付けの収納が大きくて、台所は比較的楽に片付けられたのに比べ、押入れの方は中途半端に狭い作り(奥行きが通常の半分/クローゼット様のところが3部屋分あるのはいいけれど妙なところに仕切りがある…)などの理由で、モノやお蔵入りの本、ガラクタ類の収納には意外に手間がかかってしまいました。
 そしてそれをしながら無線LANにしようかどうしようか悩んでいたわけで、結局お金がかかるのとコードで結んでしまえば設定はそのままで楽、という具合に考えて線を長くしてつなぐ方を選んだのでした。


 そうこうしているうちに不動産屋さんから連絡があり、そこで聞いた大家さんの言い分というものが妙に笑えるものだったのです。それは、
 「状態や掃除などには文句はないが、一本の柱にお札が貼られていて、それを剥がしてほしい」
というものでした。
 何でもそこで「うちは敬虔なクリスチャンだから云々」ということも語られたそうですが、何ということもない八坂神社のお札、毎年子供会の神輿でおひねりをあげるともらえる地域の神社のお札があっただけです。しかもそれは人の顔ほどの高さで柱に両面テープで貼っていただけのもの…
 一瞬、なんかの嫌がらせか?とも思えましたが、「最後に出る時にデジカメの電池がなくて撮影できなかったんです。ちょうどいい機会なので、鍵をお貸しいただければその時に撮れますね〜」という具合ににこにこして不動産屋さんに話し、その通りに入って札を剥がして写真を撮って帰ってきました。これで全額戻ってくるなら何も問題にはなりません。


 そうして不動産屋さんから再度の連絡を受けてお金の返金を受けたのがこの連休の最終日の8日で、その日の午後から日記を再開したという次第です。大体こんなことをしていて、引越しというちょっとしたドラマが終わったのでした。