授業料滞納の話
支払い能力があるのに高校の授業料を納めない悪質滞納者の増加が、茨城県内で問題になっている。県教委は先月、年度内にも簡易裁判所に支払い督促を申し立てることを決定。異議申し立てがなければ、給与差し押さえなど強制執行が可能になる。(中略)…実際、悪質滞納者のあきれた言動を聞くと、この異例の措置もやむえないと思えてくる。
「やるならやってみろ」
「なぜ私が子供の授業料を支払うのか」
県教委によると、督促に対してこうした言葉で応じ、支払いを拒む悪質なケースがあるという。また、督促の家庭訪問に居留守を決め込む“確信犯”もおり、意識低下が目立つという。
もちろん、家計をやりくりして授業料を分割納入する保護者や、自らのアルバイトで納める生徒もいる。その一方で、携帯電話の料金は払うのに授業料を納めない保護者がいる。滞納者のなかには、小中学校でも給食費を払っていなかったケースもあり、ここまでくると“常習犯”と言っても過言ではない。
(中略)
納付を促す事務処理や、教職員の協力も必要な家庭訪問による督促が教育現場に負担を強いている実情もある。県教委は「あくまでも保護者のモラルを信じている。しかし、悪質滞納に歯止めをかけるためには、強い措置を取らざるを得ない」と話している。
(産経ニュース 2007.12.6)
この問題は「保護者のモラル」ではなく「契約違反」の観点から見るべきなのではないかと思います。高校はあくまでも義務教育ではないのですから。
茨城県県立学校授業料等徴収条例http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/soumu/somu/reiki_int/reiki_honbun/o4001135001.html#j13_k1_g3によれば、茨城県立の高校の全日制課程では[授業料年額 118,800円・入学料 5,650円(定時制課程ではそれぞれ32,400円・2,100円)]となっています。月当たりおよそ1万円のこの金額*1(そして単に授業料ばかりではなく教科書代その他の負担もある程度)が高いか安いかという議論もあるでしょうが、さらにここには
第13条 前条の規定による場合のほか,生徒又は入学志願者の属する世帯が次の各号のいずれかに該当するときは,授業料等の納入義務者の申請により,徴収すべき授業料等の全部又は一部を免除することができる。
(1) 生活保護法(昭和25年法律第144号)の規定による保護を受けるに至つたとき。
(2) 災害,傷病,失業,生業不振その他の理由により,著しく生活困難となつたと認められるとき。
(3) 前2号に掲げる場合のほか,教育委員会規則で定めるところにより授業料等を免除する必要があると認められるとき。
(平7条例25・追加)
というように授業料減免措置の規定も当然ありまして、不払いが一定数いるとすればそれが福祉の問題とは考え難いです。(ここで言う納入義務者は「生徒又はその保護者(生徒に対して親権を行う者,親権を行う者のないときは未成年後見人をいう」とされています)
なにより
第7条 教育委員会は,授業料の督促状の指定期限を経過したのちにおいても,当該授業料の納入義務者が授業料を滞納しているときは,当該生徒に対し,出校の停止又は退学を命ずることができる。ただし,教育委員会がやむを得ないと認める場合は,この限りでない。
(昭45条例37・一部改正,平7条例25・旧第10条繰上)
という規定をどんどん適用することなく、何とか生徒にだけはちゃんと卒業してほしいと教育委員会も学校側も考えるがゆえの悩みなのではないかと伺えるのです。温情や配慮が全然無いとは思えません。
「なぜ私が子供の授業料を支払うのか」という問いには何ら深い含意を考える必要もなく、それはただ契約であると見えるのですがどうでしょう。親権を持つ保護者が拒否するなら生徒本人が義務を負い、その生徒が払えなければ「出校の停止又は退学」があるという話です。
逆に私が知りたいのは、なぜ任意の契約において「不払い」が通せると期待する人がこれだけいるのかという点です。相手が行政だからでしょうか? ごねても問題ない。最終的に払ってもともと。うまくすればごね得… そういう機運が一部にはあるのかもしれません。
契約や約束は社会を成り立たせる基ではないかと思います。それを蔑ろにできるのは「たかをくくっている」のか「無知」なのか、あるいは「傲岸不遜」なのか。そしてそういう行動を取る親が子供をどう教育できるのか、かなり暗澹とした気分になります。
*1:「授業料は毎月,その月に在籍する生徒について第2条に規定する年額の12分の1の額を徴収する」の規定から、実際も月々一万円弱の納付と思われます