アイヌの話に絡んで

 id:sk-44さんを含め、先日の先住民族の話についていくつかのトラックバックをいただいています。どう書いたものかと考えもまとまりませんでしたが、何も反応しないのも…と思い、返事になっているかどうかわからないのですがちょっと書いてみます。


 それほど多いとは言えないのですが私には在日韓国人の知人が何人かいます。その中の一人は友人と互いに言ってもいい存在だと思っています*1。 大学の頃はこちらの方に大いに遠慮があって*2突っ込んだ話はなかなかできませんでしたが、ごくたまに、ひどくお酒が入った時などに少し胸中を語ってくれることがあったりなどして、いろいろな悩みの一つの中核になんだかもやもやした「在日」という自意識の影を見ることもありました。
 そういう時に、私には結局言えなかった言葉がありました。
 「日本人になっちゃえばいいのに」
 というのがそれです。さすがに無思慮にそういう言葉はかけられませんでしたが、たとえば「日本語で話してるんだもの、韓国人にはなれないよ」といったその言などに、複雑な葛藤の一端が窺えたように私は思います。


 彼女の代弁など私にはできません。本当はどう思っていたかについてはもちろんです。でも比較的近しい場所にいた者として感じたのは、当たり前に(ほとんど)日本人として暮らしているからこそ*3、非日本人としてアイデンティファイしなければならないものが存在するということが彼女を(少なくともその時点では)決して幸福にしてはいなかったということでした。
 私もあちらも同世代でもう40を越えてしまっていて、それこそこういう感覚自体も「古い」ある一時期のものだったとされてしまうかもしれません。80年代に青春時代があるようなそういう人の話です。今の若い人はまた異なった受け取り方をしているかもしれません。
 ただ去年の冬、増田で
http://anond.hatelabo.jp/20071115081835

日本で生まれ、物心ついた時から日本語で話し、
日本食を食べ、キムチが苦手で、
友人も恋人も日本人で、でも祖国がどうって言われてもなあ。
在日の実像とネット上の在日が
乖離しすぎててたまに恐ろしくなるよ。

 なんていうのを見たときには、ある意味そうだろうなとひそかに思ったものでした。


 今回の「アイヌ少数民族として認めよ」という話題で私の頭に浮かんだ一つの考えは、実際にいま日本人として暮らしているある人が、わざわざ「先住民」であることにアイデンティファイして、何だかんだの葛藤を引き受けなければいけないのかなあというものでした。ですから、あのhituzinosanpoさんとのコメントでのやりとりで

 アイヌと言い和人と言った時点でそこには区別が生じます。それを引き受けようという「アイヌ」の人がいるのなら、なぜそう考えるのかには興味が出ますね。

 なんていいう言い方がでてしまっていたのです*4


 アイヌ同化政策は明らかに不正義であったと思います。でもすべての水を盆に返すことはできなくなっているのではないかというのも正直な感想です。
 そして、社会的な正義のため、あるいは過去にあった不正義を正すためにであっても、誰かがこれからある葛藤の中に入らなければいけないとしたら、私は単純にはそれを勧める気にはなれません。
 一人一人の人間を見ずにタテマエでアイヌ問題が語られ過ぎではありませんか?
 ですから、私は「アイヌにアイデンティファイしている人の声」がちゃんと聞えてきて、自分で納得できる(と言いますか動かされる)までは、同じ方向には進めない気がしているのです。


 今朝のfinalventさんの記事で
■薄曇り

 花が満開。光るかのようだ。天気図を見ると気圧の変動がはげしくなりそうだ。


 夢はよく覚えていないが、「不当ということの非人称性」というなにか抽象的なテーマだった。不当性というのは対人関係に投影されながら、実は個々の人間の関与が最初から欠落している。たとえば、駅前で通り魔に刺される。大変に「不当」なできごとであり、その人を憎む。だが、愛憎で刺されるのではなく通り魔に刺されるのであれば、人間的な了解はそもそもできない。通り魔を憎むのはしかたがないが、そこに「不当ということの非人称性」があり、憎しみによって自分が同じく非人称的になる。同じ事が民族など仮託された自己性にも言える。

 と書かれていた最後のところ、私は(勝手にですが)今書いたことなどに通じていると思えてなりません。

*1:軽々しく「友」というのには慣れないもので、こういう表現になりますが

*2:それこそ大学に入るまでは一人の在日の人の知合いもいませんでしたから

*3:彼女は三世にあたっていたと聞いています

*4:でも、嫌味がましさに今さらながら気付きました。hituzinosanpoさん、本当にごめんなさい