もしかしたら暴言の類?

 小倉氏の「la_causette: 医療系匿名さんの言い草に関するとりあえずの一まとめ」につけられたはてなブックマークで以下のようなやり取りがありました。

2008年05月25日 NOV1975 社会, 医療 つまり制度が悪いだけなのに医療費削減でなんとかしようとする政府の方針が間違っているってことですよね。総論で言えば医療系匿名さんの言い分と全く変わらないと思うのですが。

2008年05月25日 OguraHideo いえ、お医者様のご機嫌をよろしくしていただくために、医師に治外法権を認めよと言う医療系匿名さんの主張に全く賛成していませんので。

 ここで小倉氏が言う「治外法権」っていうのは何なのか最初はさっぱりわかりませんでした。エントリの流れ的にもまったくそういう話ではありませんでしたし。


 それでも何とか思いついたのですが、これは「医療事故に対して刑事責任を問わないように(あるいはせめて軽減)してもらわなければ怖くてやっていられない」という医師の主張をとても乱暴に皮肉って治外法権」と表現しているのではないでしょうか?

 治外法権(ちがいほうけん)とは、一国の国内であって、その国の主権が及ばない特権であり、外部の法によって治めることができる権利。

 もしその読みがあたっているならば、これはかなり悪意に満ちた比喩ですし、法律の専門家を名乗る人にしてはお粗末な表現であるように思われます。(あくまでそうならば、ですが)


 これはGood Samaritan doctrine*1に基づく法制定を求める医師の声を、わざと印象の悪い言葉で表現しているに過ぎないのではないでしょうか。医師の人たちによって求められているのは「治外法権」ではなく、善きサマリア人の法に類似のものだと思うからです*2
 善きサマリア人の法(日本語版 Wikipedia

 善きサマリア人の法(よきサマリアびとのほう、「良きサマリア人法」、「よきサマリア人法」とも、英:good Samaritan law)は、「急病人など窮地の人を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人にできることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という趣旨の法である。誤った対応をして訴えられたり処罰を受ける恐れをなくして、その場に居合わせた人(バイスタンダー)による傷病者の救護を促進しよう、との意図がある。アメリカやカナダなどで施行されており、近年、日本でも立法化すべきか否かという議論がなされている。

 もっとも、医師の方々が求めるのは直にこの法で守られる権利ではなく(それは救命救急士の方が必要とするものでしょう。cf.笹山登生の発言・寸感アラカルト「秋田の救急救命士がおこなった気管内挿管は、悪いことではない。」など)、これに準じた医療行為者の責任軽減の立法なのでしょうけれど。


 これは立法化について真剣に討議するに足るものだと思いますし、もし小倉氏がこれに否定的であるとしてもそれを「治外法権」と言ってしまうならば感情的に過ぎ、専門家として顰蹙ものの表現だという印象を受けます。
 少なくとも「実名」をあげた上での責任ある発言とは感じられません。ご自分の主張をご自分の行動が危うくする(かもしれない)一つの例に見えました。

*1:他人を救助するものの責任を軽減する不法行為法の一原則

*2:ちなみに私は医師ではありませんし、この語をはじめて知ったのは『評決』(The Verdict)というバリー・リードの小説の中でした(後にポール・ニューマン主演で映画化もされています)。