究極の願い

 昔の某海外SF短編集で(これはちっともサイエンスっぽくないのですが)、「悪魔が怖れる究極の願い」というものを一つネタ(アイディア)にしたものがありました。
 悪魔はその手下たちと毎日毎日人々の願いを叶えてあげて、そのかわりに、と魂を手に入れる商売に勤しんでいます。連日数十人、数百人の人間が来て願いを言いますが、ひそかに悪魔は「究極の願い」というものを怖れていました。誰かがその「究極の願い」を口にしたら、そこで悪魔の命は終わり。そういう仕組みがあるという設定です。


 次の人間がそれを言いやしないか、その次の人間が突然それを口にするんじゃないかと、実はびくびくしながら悪魔は願いを叶えていきます。手下は「大丈夫ですよ、何百年もやっていて誰一人言い出す奴はいなかったじゃないですか」と慰めるのですが、何万人大丈夫だったとしても次の一人がそうではないという保証はありません。悪魔は腋の下に汗を滲ませながら、次の人間を自分の前に呼び入れるのでした。


 さて、その究極の願いとは?
 

(ヒント)お軽いラブコメ、ハーレムものなんかの今どきの主人公の対極、真逆な願いがその答えになっています。



 そこでの答えは

 自分はまったく今のまま変わらずに、そのまま世界の中で一番醜悪で惨めで情けない存在になること。

 でした。
 この願いが叶えられた時、他の人はみな素晴らしい存在になるということで、つまりは究極の利他的願い…ということです。
 自分はこれっぽっちも変わらず、そのまま世界の中で一番素敵な男の子になるという願望・メッセージの対極にあるなあとふと思われたのです。