奴隷制とアフリカ系米国人に謝罪する決議

 昨日ちらっとみかけていた記事。ブクマしようかどうしようか躊躇して保留。もう少し詳しい記事をみてからと思っていたのでした。
 米下院、奴隷制とアフリカ系米国人に謝罪する決議採択

 米下院は29日、奴隷制とアフリカ系米国人に対する人種差別政策について「根本的に不当、残虐、野蛮、非人間的」であったとし、連邦議会としては初めて公式に謝罪する決議を採択した。


 下院で発声投票で採択されたこの決議は、「米国民を代表し、アフリカ系米国人やジム・クロウ(Jim Crow)法として知られる人種差別政策や奴隷制に苦しんだ彼らの祖先に対する不正を謝罪する」とし…(略)
(7月30日 AFP)

 で、これに関するニューヨークタイムスの記事がこちらにありました。
 http://www.nytimes.com/aponline/washington/AP-Slavery-Apology.html
 見出し的には扱いはたいして大きいものではありません。(voice voteですから多分に儀礼的な意味合いの決議だったと思います)


 ここからAFPの記事にないポイントをいくつか挙げますと


・これはテネシー州選出の民主党議員Steve Cohenの提議によるもの
・Cohen議員は黒人住民割合が60%を超えるメンフィスで選出された人で、前回の選挙時に黒人候補乱立で票が分裂したために当選した
・来週の予備選挙でCohen議員は有力な黒人対抗候補の挑戦を受けようとしている


 まずこのような背景の説明があります。かなり意地悪く思えるぐらいの具体的な指摘で、NYTはこの決議を選挙民対策の一貫でしょ、と醒めた目で見ているように思われます。そして次のようなところもありました。


・この謝罪決議と同様のものはすでに5つの州で議決されている
・かつて下院でも類似の議案は何度かあがったが、謝罪が賠償金問題につながるのではないかという危惧からその度に棚上げされていた
・Cohen議員は賠償という言葉に触れずに謝罪に終始するという方法で採択にこぎつけた


 実より名を取るといった具合でしょうか。この州レベルでの議決に関して、たとえばフロリダ州では今年の3月に決議されているという記事もありました。
 http://www.nytimes.com/2008/03/27/us/27florida.html


 さてAFPの記事を読んだ時から気になっていたのは、誰が誰に対して謝罪しているのかという点の詳細です。どうやら下院での決議は、謝罪は「国民を代表して」行なわれ、かつて奴隷制やJim Craw法による差別で被害を受けた人々と、いまだにその帰結で苦しんでいる(とされる)「black Americans」に向けられてなされていますね。
 でも考えてみると、その謝罪が向けられている人々も現在の国民の一翼を為す人々であるわけですし、どうもここらへんに釈然としないといいますか(将来的に禍根を残すかもしれない)あやふやなところを感じてしまいます。確かにいまだに白人層に比べて不遇な黒人層が存在するのは事実ですが、彼らもまた「国民」として政治に参加し社会活動を営んでいるわけです。(これまた最近のNYTの記事でしたが、米国内のblack peopleだけで国を作ったと仮定すると世界16位の規模の国ができるとかいうものもありました。)


 フロリダの記事の冒頭には、

 The Florida Legislature formally apologized Wednesday for the state's “shameful” history of slavery, joining five other states that have expressed public regret for what Senator Barack Obama, the Democratic presidential candidate, recently called America's “original sin.”

 という表現で、かつての「恥ずべき奴隷制」について「民主党の大統領候補バラク・オバマが最近アメリカの『原罪』と呼んだ…」という修飾がかかっています。
 それを『原罪』に類するものとして捉えるべきかどうかはアメリカの国民の判断によるものと思いますが、もれ聴くオバマ候補の主張からすれば、この『原罪』は白人でも黒人でもその他の人種でも等しく担うべきものとして意識されていると考えられます。そしてそれでこそ「unity」が目指せるわけで、どうも下院の決議では「加害者−被害者」の特定の立場の固定が残存するような構造が透けて見えるように思えて…


 Cohen議員の利害得失に絡むのではないかという邪推は措いても、今ひとつすっきりした感じを受けない決議だなという印象が強くなったように感じます。

東京新聞でも紹介されたようです

米下院、奴隷制謝罪を初決議 黒人差別も東京新聞

 損害賠償につながる可能性があるなどの理由から、連邦議会では謝罪決議は採択されていなかった。今回の決議は損害賠償には触れていない。

 この点まで触れたのはよいと思います。コーエン議員については「南部テネシー州選出で白人の」とだけ記述。