「わが﨟たし悪の華」って何?

 どうでもいいことと思おうとしていましたが、そろそろ限界でここで穴を掘って叫んでみます。
 某アニメのエンディング「わが﨟たし悪の華」、背中がむず痒くなってしまうタイトルです(歌の良し悪しは別)。


 まず「らうたし」というのはク活用の形容詞ですから、それが「悪の華」という体言にかかるならば


 「わがら﨟うた悪の華」(もしくは 「わがら﨟うたかる悪の華」)


 にならなければおかしいです。これは文法(用語)などは後付けと考えてもよいくらいのもので、「らうたし」となっていればそこで内容が切れ、「悪の華」にはかかっていないと耳で自然に判断されるはずのこと。


 そして漢字が「臈たし」ならばまだしも、よくよく画面を見ると「﨟たし」じゃないですか。


 「臈たし」ならば

 らうたし(形ク)
 [組成] 労甚(いた)しの約。
 [語感] 何かと世話をしていたわってやりたい気持ちを表す。かれんでいじらしいという感じ。
 (精神的に、見た目に)かわいい。いとしい。愛らしい。かれんである。

 これに対して「﨟」は

 らふ(名)
 (仏教語) 僧侶が受戒後、安居の功を積んだ年を数える語。身分の高低にいう語。階級。

 というように、かな表記も意味も全く違ったものです*1


 確かにこの後者が元になってできた「﨟(ろう)たける」という口語の言葉はあります。
 こちらの意味は「洗練される、上品である」もしくは「年功を積む」です。
 もしこちらの語なのだというのならば、素直に「わが﨟たける悪の華」とすればよいのです。この「ろうたける」は下一段活用の語で、終止形も連体形も「−ける」ですから。*2


 それが中途半端に「わが悪の華」となっているものですから、古語なのか口語なのか、かわいいのか上品なのか、そこらへんが全くぐちゃぐちゃに伝わらないものになってしまっているんですね。


 雰囲気だけ伝わればいい、というのであってもどうにも独り善がりは気になって仕方がないのでした。
(※ 古語の意味などは、とりあえず手許にあった旺文社『古語辞典』を参照しています)


 ひさしぶりにこういうのに毒づいてみました。以前も『ロミオ×ジュリエット』で文句をつけたことがありましたね。
 ⇒ ■「償えざる」の周辺
(※「﨟」は無理やり文字参照で出しています。環境によっては見えないかもしれません。「臈」の字の草かんむりが肉づきの上までかかっている文字です)

*1:ちなみに「﨟次」は、﨟を積んだ年数。出家後の年数を表します

*2:古語の下一段活用の動詞は基本的に「蹴る」だけです。