ぼくのせんせい

4がつ1にち
 今日から5年せいにあがった。ユウとオッチとヤマザキはまた同じクラス。ただクラスの女子が5人も多いのは好きでないと思うた。あいつらうるさい。担任は江川先生。女子はそろうて好かんと言う。あらけねえ先生で女子でも泣かす。今日も授業中に話しとった2人が叱られて泣かされてた。


4がつ15にち
 カヨ先生はクラスの副担任だ。とてもいい先生だと思うた。このあいだエガが休んだとき算数と国語を教えてもらったが、せかさんでやさしく教えてくれる。若い先生だからと何かとエガはカヨ先生にきちい。でもエガよりいい先生だったのがわかってよかった。


4がつ28にち
 きょうは全部カヨ先生に習った。少し声が小さいが、きばって皆に声をかけてくれる。エガはズルじゃとユウが言っとった。連休でどこかに遊びにいったらしい。でもこれはいいズルだと思うた。カヨ先生はやすみ時間もクラスにかたってくれる。いつも何だかいい匂いのする。


5がつ7にち
 今日のエガなおかしい。誰かれ何しよっても怒る。気分屋じゃ。休みボケじゃとヤマザキが言うたのは本当だと思うた。でも俺たちは怒られてもいいが、カヨ先生にまできちいのはひどい。何だか先生が泣いとったらしいうわさを聞いた。皆しょうもねえと思っとる。


5がつ21にち
 女子のトモコはすかんたらしい。あいつはカヨ先生に俺が先生ん前じゃおとなしゅしちょってん、先生のおらんとこじゃとしねっとわりいことんじょうするって告げ口しとうてオッチから聞かされた。カヨ先生に嫌われたらしちい。あとでトモコに文句を言うたら泣いた。エガに叱られた。女子はすぐ泣くから好かん。でもカヨ先生は別だ。


6がつ13にち
 ユウがしんけんエガに頭にきとる。ユウは牛乳が嫌いで飲みきらんのでいつも残いて俺たちが飲んでやっていた。エガがそれを見つけてだめじゃと、全部飲まるるまで返さんといいよった。今日は帰ってから皆で川に遊びにいくはずだったけどユウだけ残されて俺たちも皆校庭で待ってて、暗くなるまでユウは出てこんかった。やっと出てきたとき、エガに勝ったとユウが言うてた。エガの嫁さんが夕食だからと何度も携帯で呼んできて、廊下に出たときに牛乳をポケットのハンカチに飲まして、戻ってきたエガにこれでいいかと瓶を見せてやったと笑うてた。ただユウは小便漏らしたみたいになってたので、皆少し離れて歩いて帰った。


6がつ30にち
 きょうは午後から雨が降りよるのに傘がなくて困っておったら、カヨ先生が傘に入れてくれたので二人で帰れた。先生と二人で話ができたのは初めてで、何かやさしいお姉さんみたいな人だと思うた。何か香水つけてるんですかと聞いたが、きっとシャンプーの匂いと言われた。あとでユウやオッチたちに待っとうたのにと言われたが、一人で走って帰ったと言うた。でもトモコがどこかで見ていたらしく、あとでうたちいと言いよった。でも俺は気にならないし構うなと言うた。また泣きよる。うたちいのはあっちだと思うた。


7がつ18にち
 終業式で校長のお話のはずが校長先生はしばらくお休みということで教頭先生が話をした。エガな何かまた不機嫌な顔をしていたけど、きょうはどの先生もちょっと青くなったようすで落ち着きがなかった。通知表を見たら校長の名前がなかった。どうしてですかとエガに聞いたらうるさいと叱られた。カヨ先生があとで何人かに説明してくれたが、どうも校長先生な「事情」があって新学期から替わるかもしれないということ。エガも替わればいいのにと言ったらちょっときつくたしなめられた。でもあんなに授業がへたなのは、やっぱりズルして入ったんじゃないかと思うたのでそう言った。ユウたちも頷いていたが、そんなことは言うものではないとやっぱりまた叱られた。少しへこんだが、やっぱりカヨ先生はやさしいと思うた。


9がつ1にち
 始業式の日。
 今日からカヨ先生は来られんことになったとエガが言った。
 事情があって辞められたのだと言った。
 ズルして先生になってたんだという奴がいたので、腹が立って組み付いていって倒してやった。エガに怒らるる前に、馬乗りになっとる俺のほうが何だか泣けてきてしようがなかった。
 居残りをさせられている間中、泣いた。