ある図書館でのホームレスの話

 図書館にも女性専用席 ホームレス対策…「不公平」の声も産経新聞)という記事が発端で侃々諤々といったところのようです。
 私は、これは一般化して語るべき問題ではないと考えます。これが「選別と排除」一般に関わるものというニュアンスで語られ、読んだ人間に「お前は差別者か?」みたいな踏み絵を迫るものとして(多少なりと)取り扱われた(もしくはそう受け取られてしまった)ことが、議論を紛糾させているもとではないかと思うのです。(その意味ではどこかトリアージ論争に似ているかもしれません)


 これはあくまでもホームレスの人が涼を求めて来る一部の図書館があって、そこではそのケースにどう対処すべきなのかという問題が提示されているだけです。一般にホームレスを排除すべきではないとか、図書館はそもそもどうあるべきかとかいうことは、あくまで副次的なものとして考えなければいけないでしょう。
 そこで採られた「女性専用席」なんていう姑息な手法への批判はあって然るべきかもしれませんが、当事者を遠く離れた者が感情的になったとしてもこのケースで救われる人は誰一人いないのですから。


 自分が当事者ならばどうするかを考えるのはもちろん無意味ではありません。私がもしホームレスの側で、暑さをどうにもしのげないとなれば、公立の図書館であろうがコンビニや商店であろうが追い出されるまで入り込むだろうことは間違いありません(熱中症による危機感も強くおぼえることになるかもしれませんしね)。また図書館の一般利用者側であるならば、かなり酷い悪臭や態度を見て眉をひそめることになるかもしれません。立場による快不快は素直に感じることと思います。
 それでは図書館員、管理者の側にいたらどうかと考えますと、もしその図書館が本を借りて読む人以外の人間(たとえば勉強する学生。居眠りする人。席だけ取ってほとんどいない人、などなど)を許容しているならば、悪臭がするとかいってホームレスの人だけを排除することはしてはならないと思います。不快感は人それぞれ。もしか「加齢臭」が酷いから高齢者は閲覧禁止となってしまうようなことを考えてみれば、特別に忌避されることの危うさがどれだけ他人事ではないかは明らかだと思います。
 「情けは人のためならず」ということで、自分のために、特定の人だけ(行為によらず)忌避しようとすることには反対するでしょう。
 そしてもちろん、ホームレスの人の居場所を考えるべきなのは図書館の任ではないとも思いますので、苦情やその他問題が多そうであれば、然るべき筋に解決を願うことでしょう。もしたむろする学生の態度が悪いならばその所属する学校に相談しますし、ホームレスの場合は市町村あるいはその上の福祉課に相談するでしょうね。


 こうしたことを考えて各々が意見表明すればいいところなのですが、どうにも「ことさら各人の倫理観をつついている」ように見られる人と「ことさらにそれを問われているのではないか」と考えてしまう人の二つの立場があって(おそらく両者とも考えすぎなのですが)、妙に「選別は是か非か」「排除は是か非か」といった大きな問題をめぐる対立っぽくなってしまっている気がします。
 これらは個々のケースに即して考えなければ、少なくとも私は是非を論じることはできません。一般論として「人を選別や排除することをどう思うか」と聞かれれば「よくないでしょうね」と答えるでしょうが、その一つ一つの選別が意味を持つときはあろうとも考えていますから、絶対に何が何でも選別や排除に反対とも言い切れないのが当たり前ではないかとも思います。


 「趣旨は見えていても微妙にずれている気がする」論争が多いように見受けられるのは、こういう理由ではないかと思いました。個別の例はあくまで個別に考えるようにすれば妙な行き違いは少なくなるのに、という感じを受けています。