少し驚いた話

 「大虐殺に沈黙した法王」は聖人か 聖職者が論争

【ローマ=喜田尚】第2次大戦中のローマ法王ピオ12世(在位1939〜58年)に対する評価を巡って、ユダヤ教カトリックの聖職者の論争が再燃している。ナチス・ドイツによるホロコーストユダヤ人大虐殺)に沈黙したと批判するユダヤ教指導者が、法王を聖人に列するバチカンの動きに異議を唱え、それにカトリック側が反発。微妙な関係のバチカンイスラエル政府は沈静化に必死だ。


 きっかけは7日、バチカンの世界代表司教会議にユダヤ教徒として初めて招かれたイスラエル・ハイファの宗教指導者の発言だった。バチカンがピオ12世を聖人の前段階である「福者」にする手続きを進めていることに触れ、「我々は彼の沈黙を忘れることができない」と中止を求めた。


 これに対し、バチカンの列聖省の神父が18日、ピオ12世に批判的なイスラエルホロコースト記念館「ヤド・バシェム」の展示を取り上げ、「歴史の偽造だ」と発言。現法王ベネディクト16世のイスラエル訪問は「展示が変わらなければ、ないだろう」と語ったため、波紋が広がった。 (後略)
(2008年10月25日)

 列聖というより列福の段階ということですが、ピオ12世の史的評価に関して論争めいたものがあったようです。一読して感じた疑問は、誰が(どういう資格で)誰に何を要求しているのかが今ひとつよく見えないということでした。
 バチカン及びイスラエル政府は沈めようと行動しているということですので、ユダヤの聖職者が個人的にカトリックに対して意見しているということで良いのでしょうか。それにしても世界代表司教会議になぜそういう人が…、と思いましたので、まずカトリック中央協議会のサイトを覗いてみました。
 世界代表司教会議(シノドス)第12回通常総会開催概要
 ここの記述を見ますとカトリックの司教ではもちろんなく、通常のオブザーバーでもなく、特別招待者として招かれ発表を依頼された「ハイファ首席ラビのシェアル・ヤシュヴ・コーヘン師」という方がおられるそうです。「ラビ、また非キリスト者シノドス参加司教に演説を行うのは初めてのことです」ともあります。記事にあるユダヤ教徒として初めて招かれた…ユダヤ教指導者はこの方で間違いないでしょう。
 世界代表司教会議(シノドス)はもちろんカトリックの内部的な集会です。そこにユダヤ教の宗教者が招待され、ゲストの個人としてピオ12世の列福に批判的な発言をしたということなのですね。
 宗教者の個人的信条が述べられたという話でいいんじゃないかと思います。若干バチカンも慌てたでしょうが、このコーヘン師の語ってしまったものをどうこうせずとも良いことでしょう。
 頑固で空気を読まない宗教者があえて問題発言をしたということで人々の記憶には残るでしょうが、イスラエルが公式に問題を提起したものではない模様です。


 もともと他の宗教の聖者(や福者)の決定に他宗の人が軽々に容喙できるとは思えません。歴史認識で論争をすることはあり得ても「中止を求める」とまでするのは穏当ではないように感じました。個人の暴発とすれば、こういうハプニングはあり得るかもと思いました。


 もしイスラエル政府がこのような「中止を求め」たとしたら…。それはかなり僭越で独善的な行為となったことでしょう。ちょうど靖国問題に容喙しようとしたどこぞの国々がしたように。