文化の日の話題

 今日ふさわしい話題と言えば「文化包丁」かなと思うのですが、文化といっても文化・文政(1804〜1829)の頃の町人文化云々の話ではなく(ちなみに最初に山東京伝の名を知ったのは、半村良「およね平吉時穴道行」でした)、耕す(cultura)から派生した翻訳語としての文化のほうです。
 頭に「文化〜」とつけてモダンな感じを付けるものには住宅だの干物だの学園だのシャッターだのいろいろあって、折に触れいろいろ講釈を聞いてきましたが今検索してみたら次のところが結構まとまって良い感じでした。
 ⇒文化干しはなぜ<文化>?
 文化包丁については、

 ここ(※文化住宅)で使われた包丁は、研ぐ必要のない文化包丁。コンロの上には、吹きこぼれのないアルミ製の文化鍋がある。共通しているのは家事労働の簡便化だ。ニューファミリーには嫁も姑もいない。夫も妻もキッチンに立つ。それを可能にしたのは太平洋ベルト地帯を軸とする重工業の発展、世界にも例のない高度経済成長だ。ライフスタイルは一変し、それを予感させる商品には<文化>の冠がついた。

(ちなみにこちらでは「文化放送はなぜ文化なんでしょうか?」にも触れていて、それが「女子パウロ会」によって戦後作られたものであるというネタがありました)


 まあ高度経済成長期に「文化」を冠したネーミングが多く付けられたというのは確かでしょう。「昭和30年代、この文化鍋はどの家庭でも使われていたという印象がある。それは大きな羽釜に代わっての登場だった。」(文化鍋/亀印)電気釜以前の炊飯道具としての文化鍋。もう見たことがない人のほうが多いと思いますけど。
 でもちょっとここの説明の「研ぐ必要のない〜」というのは違うでしょう。もしかしたらステンレスの包丁のことが頭にあったのかとも思いましたが、ステンレスでも刃の切れ味は永続するものではありません。錆びにくいので研ぎをうっかりしてしまうということはありますが(ホームセンターなどでステンレス用の研ぎ器はたくさんあります)。文化包丁とは素材で付けられた名ではないのですし。


 文化包丁はおそらくネーミングが「文化」に変わってきたのが上記時期で、それ以前から「三徳」あるいは「三得」という名で知られていた汎用包丁(ここから万能包丁とも名付けられる)としてあったのです。
両刃 文化包丁(森本刃物製作所)

 文化包丁は三得包丁とも言われ、野菜/魚/肉の調理に幅広く使える汎用包丁です。左右均等に力のかかる両刃のタイプで、菜切包丁のように野菜を切り分けたり切っ先を使って魚の下処理などもできます。

包丁について(YOSHIKIN 吉田金属工業株式会社)

■ なぜ文化包丁はこのような形になっているのですか?

文化包丁は俗にいう万能包丁のことで、洋包丁の牛刀と和包丁の菜切りの特徴を1本の包丁に凝縮した形であると言えます。また、峰(背)の反り返った部分でお魚の鱗を取る事も出来ます。海外ではORIENTAL KNIFEと呼ばれています。

 こちらの後者のFAQはなかなか面白い情報を教えてくれます。

■ 「両刃」と「片刃」の違いは何ですか?
両刃は両面に刃付けをした包丁(牛刀・菜切り等)で一般的には洋包丁を指し、片刃は片面にのみ刃付けをした包丁(出刃・柳刃等)、主に和包丁を言います。

■ 「洋包丁」と「和包丁」の違いは何ですか?
一般的には両刃で柄が鋲止めを洋包丁、片刃で差し込み式の柄を和包丁と区別されています。 また、日本と西洋の食文化が違う事から、包丁の細かな構造の違いもあります。押し切りを多用する洋包丁に対し、和包丁は引いて切る使い方が基本となっています。

■ 牛刀(G-2)と三徳(G-46)の違いは何ですか?

明治時代、まだ肉を食べる習慣がなかった日本に欧米より肉を食べる食文化が伝わり、「牛」肉専用として「牛刀」が作られました。三徳包丁は肉、野菜、魚と三種類の食材に対応が可能な事から「三つ徳をする」=「三徳」と名前が付けられた包丁で、家庭用として作られた万能包丁です。

 洋包丁が両刃で押して切るのがメイン、和包丁が片刃で引いて切るのが基本といったあたりは、西洋鋸が押すときに切れて日本ののこぎりが引くときに切れるという件にも関わっていそうで興味深いです。
 包丁の製造工程を説明してくれるこちら(堺刀師)のサイトでも、

引いて切るのが片刃包丁だとすれば、両刃包丁は押してまっすぐ切る包丁といえます。
西瓜切り、菓子切り、寿司切り、餅切りなどの特殊包丁は両刃となっています。

 というように記述がありました。(ちなみにこちらのお店は創業が文化2年(1805)とか…)


 あととても面白いと思えた情報が次のところにもありました。
おしえて!HOME'Sくん 文化包丁と牛刀の違い

三徳は菜切り包丁に切っ先が付いたものですから、野菜寄りの万能包丁。
牛刀は分野を選ばない万能包丁です。牛刀の方は三徳に比べ刃先がカーブしています。
そのため削ぎ切りや、特定のポイント(肉のスジやひも状のもの)に力を入れて切るのが得意です。
一方三徳は刃先がたいらに近いので、かまぼこ型になったタクアンなどを切るのが得意です。
また三徳は背が高いので、切った食材をかき集めるのにも便利です。(本当は刃先が傷むのでいけないのですが)
三徳でも先の方を使えばポイントは切れますが、牛刀に慣れている人には
使用するエリアが限られて不自由に感じるかもしれません。

 そしてこちらでの牛刀の説明ですが

明治時代にフランス料理が洋食のさきがけとして紹介されたときに一緒に調理道具も入ってきました。
このときに「牛刀」と訳されたみたいですけど本来この包丁は「Grand couteau de cuisine 料理用の大きな包丁」という意味で肉専用ではありません。
フランスではこの包丁とぺティナイフの組み合わせで肉、魚、野菜、菓子まで切ります。
もちろん用途に合わせて多種多様の包丁がありますが、この「牛刀」で野菜を切らないのならほかにどんな包丁で切ればいいのかわかりません。「牛刀」と訳したため誤解されています。


文化包丁は「牛刀」と和包丁の「菜っきり包丁」の特徴を合わせた包丁です。
当時和と洋の良いところを合わせてさらに優れたものを作ろうという野心的な考えで作られたものでしたが今になってはどれも中途半端はな気がします。
肉、魚、野菜を切るのに適しているといわれても牛刀自体何でも切りますから(^^:
この包丁はプロが持ってるのを見たことありません。

 牛刀自体が万能なんだというお話。興味は尽きません。