就職浪人街
BS世界のドキュメンタリー「韓国 就職浪人街 〜格差にあえぐ若者たち〜」、日曜放送でしたが昨晩録画を視聴。
韓国、ソウルの一角にあるノリャンジン地区は、わずか1キロ四方におよそ50の就職予備校と200を超す3畳一間の安アパートがひしめきあい、1万人の就職予備校生が 集まる“就職浪人街"である。予備校では早朝から最前列の席を取ろうと長蛇の列ができ、自習室は本のページをめくる音もはばかれるほど殺気だった雰囲気だ。若者たちは趣味も友人も、受験勉強を妨げるあらゆる欲望を棄て、早朝から深夜まで修行僧のように受験勉強に明け暮れる。
彼らが脇目もふらずめざす就職先は公務員である。その理由は、韓国経済の低迷が続くなか企業が正社員の採用を手控え、非正規雇用がこの5年間で約1.5倍、200万人に激増。また、正社員として入社しても2年以内なら会社の都合で解雇できるため、大半の若者たちは、いつ首を切られるかわからない状況だからだ。必然的に身分の安定した公務員に志望者が殺到するようになった。(後略)
なんでこんなに公務員に殺到するのか不思議でしたが、韓国の民間企業は一部大企業と大多数の中小企業からなっていて(日本より極化)、中小企業やサービス業が基礎体力不足というのはあるんじゃないかと思います。
また彼らは面子にこだわるところが大で有名企業指向は日本以上に強く、小さい無名のところに入るとか契約社員でいるとかにプライドが満足できない場合、結局公務員様になってやるという賭けのような選択しかないのかとも見えました。
あとやっぱり想起されたのは「両班」志向の伝統といったものがやっぱりあるんじゃないかということですね(過去記事:両班とは)。まったく科挙的な様相を見せていると思いました。
就職予備校の講師(警察学校から引き抜かれた人)が「5年前ならある程度勉強すればほとんどの人が受かっていたような公務員試験が難易度をあげ、今では数年勉強しないと受からないものになってしまいました」と語っていたのですが、さすがに地方公務員でも数十倍の倍率は過熱しすぎでしょう。まあ難関化すればするほどそれに価値があるように思えてくるというところもあるのでしょうね。そこらへんは単純すぎる構造だと見えます。
「通貨危機以来続く不況」みたいにナレーションがあって、不況の中の格差拡大といった話につないでいたところには違和感もありました。去年、一昨年あたりまで韓国は決して景気が悪いという話ではなかったはずと記憶しています。あまりストーリーを作って落とし込むことをしなくともドキュメンタリーとしてはいい素材だと感じるのですが。
また、「大卒者の就職率が正規雇用で48.0%(2008教育科学技術部)」と煽りっぽく大書していたのですが、韓国では日本の専門学校にあたるようなものがなく専門大学というものがあって、その高等教育(大学や専門大学)への進学率は89.8%(2004年。この年の日本は50.7%)というぐあいに日本とは直接比較できるとも思えませんので、これもまたオーバーだなあと。
「この街で合格をつかむには三つのものを捨てなければなりません。まず自分の趣味。次に友人。それから、携帯電話ですかね」とか言っていた30歳の男性がフォーカスされていた受験生の一人でした。こういうことを言っている人は大抵…なんて醒めた感じで見ていたのですが、お父さんとお母さんが小さい食堂を経営していて、その経営が苦しくなったりお父さんが病気になったり。本人はもう三年で八つも公務員試験を落ちていてもう後がない、なんて聞かせられますとやはり同情的になって「受かったらいいな」と見てしまいます(苦笑)
結局フォーカスされた人の中で彼だけが唯一合格していました。これもまた作りっぽい構成かなと思えましたが、一人ぐらいこういう人を出さないと「ドラマ」にならないと判断したのでしょう。
それにしても聞きしに勝る受験競争の国だなあという感想です。大学入試の時点を過ぎて30代あたりまで過熱した受験戦争が一部とはいえ続く韓国は(数年の兵役があるのを割り引いても)日本より幸福な国には見えませんでしたね。これに比べたら「ゆとりが必要だ」とか言われて批判されていたかつての受験戦争など甘いものとしか思えませんでした…。