一人暮らし

 続けて外出してどこかでウィルスをもらってきたのでしょうか、喉が痛くて身体がだるいといった風邪の症状が出ています。勤め先は早引け。平熱以上の熱が出ていないのは幸いなのですが、これはもうちょっと重くなりそうな気配もあります。
 こういう時一人暮らしは若干気弱になります。ほとんどないでしょうが、このまま死んだら発見は何日後かなあと不気味なことをふと考えてしまっていたり…。お米は無くならないか、薬はあったか、冷えピタはどうか、などまだちゃんと動けるうちにやっておこうみたいなことは(念のために)しておきます。
 まだ若いから(というと笑われそうですが)、取りあえず体力的にも必要以上の不安はないのでいいのですが、これが何十年か後になりますと独居がすごくシビアになるでしょうね。


 先々週だったか、テレビでたまたまフランスのLe PariSolidaireという団体の紹介番組を見ました。これは都会で一人暮らしの老人と、家賃が高くて暮らしづらい若者をマッチングさせて同居させる、彼らの言葉で言いますと「都会の片隅で見ず知らずの二人が世代を超えたコミュニティを作る」という目的を持った団体だそうです。
 メモを取っていましたので、それをちょっと書いてみます。


 パリソリデールが作られたのは、2003年の夏、猛暑に襲われたパリで独居老人がたくさん孤独死してしまったことがきっかけだったそうです。一人暮らしの老人を無理なく支えるシステムは考えられないかと、2004年にこれが設立されたとのこと。
 住み慣れた自宅で暮らしたいというお年寄りから住居スペースを提供してもらい、家賃が高すぎてパリの中心部では住みづらいという若者に一緒に暮らしてもらう…うまく行けばとても合理的なシステムのように思われます。代表のオード・メセアンさんは、「わたしたちは不動産屋でもありませんし、お年寄りの世話をするヘルパー組織でもありません。若者にもお年寄りにも仕事だと思って欲しくないのです」と語っていましたが、目的とするのは「互いに理解し合った共同生活の構築」であって、お互いにメリットを享受できるものだということです。


 共同生活を望む老人(とはいえ、50歳以上で健康に問題のない人とされています。ちょっと若めでもいいんですね)は、パリソリデールに電話などで申し込みます。電話で年齢や健康状態を聞いた後、スタッフが直接その方の家を訪れ、間取りその他の写真を撮るそうです。お互いのプライバシーを守るため「若者には個室が用意されていること」が最低条件。その上で、どのような若者との同居を望むか、付加したい条件(後述)は何か、など細かく伺うとのこと。
 若者のほうは18歳以上30歳以下であればよいそうで、彼らはネットでプロフィール(学業や仕事の内容。志望動機。経済状態など)を細かく記入して応募。そしてパリソリデールに直接来てもらい、面接して条件に合うお年寄りとのマッチングが行われるということです。


 さてその「条件」というやつですが、基本的に一人暮らしのお年寄りが「誰かと同居することで慰めと安心を得る」のがもともとの目的ですので、同居する若者にどれだけ傍に居てもらうかというところでさまざまな条件が出てきます。いつ一緒にいるか、夜の帰宅はどうか、食事は共にするか、学校が休暇中の帰省は許されるのか…などなどがここで挙げられる条件になるそうです。
 たとえば、「朝食は一緒に取る。授業がない午前中はできるだけ一緒に過ごす」とか「週末と休暇中はなるべく一緒に過ごす。タバコを吸わないこと」とか、「どんなに遅くとも8時、できれば7時には毎晩帰宅すること」なんていうのもありました。
 条件が若者の自由を制限する厳しいものであるほど、同居で支払う家賃は限りなく只に近いものになっているそうです。もちろん条件が飲めなければマッチングは成立しませんから、若者も基本的には無理をしなくてもいいのです。


 うまく行けばそれこそWIN-WINなのでしょうが、なかなか問題も出そうです。中には若者をこき使ってやろうと考えていたお年寄りや、一緒に住んでしまえば勝手に出来ると安易に考えていた若者などもいたそうで、パリソリデールの仕事はマッチングの後も続くものだそうです。結構とんでもないものでは、インターネットを使うなら出て行け!というのもあったり…。
 そして契約は基本的に一年(正確には10ヶ月単位)で、不満があれば更新はせず、気に入れば毎年更新するという感じで話が進むそうです。世代や習慣が違う二人の同居ですから摩擦はある意味当然。むしろお互いの考え方の違いを受け容れることができるかどうかが、共同生活の鍵だということですね。
 04年の設立以来1000組以上のマッチングを成立させてきたパリソリデール。個人主義の傾向が強いと言われるヨーロッパだからこそうまく行くのかもしれませんが、うまく行けば一石二鳥にも三鳥にもなりそうなこのシステム、日本でも誰かが試みてくれないでしょうか(←他人任せ)。
 まだすぐには利用できない年齢ですが、早晩こちらも年を取りますし、なんだか一度やってみたいなあと思わないでもないのです。病気になって、すぐにこれが頭に浮かんだのでした。