マスクの意味

 一般人の「マスクをした人の図像」の意味はまずもって「(風邪などの)病気に罹った人」だったはずです。まあそれにサングラス(や鳥打ち帽)などが加わって「犯人」「怪しい人」ぐらいの表象となることもありますが、いまだにそれが「病気を予防しようとしている人」とはすぐに受け取られないはず。
 つまりマスクは長いこと「病人がつけるもの」であったのですし、それは他の人に感染を広げないための手段と認識されていたのだと思います。
 ところが今回の新型インフルエンザ騒ぎの中では、とても多くの「予防のためのマスク」に関する言説が聞かれました。で、他の国ではほとんどしないとか、海外旅行者の中でしているのは日本人だけだとか、いつの間にか日本特殊論みたいなものが聞かれるほどになっています。


 マスクにそうした予防の意味合いが込められるようになったのは、実は日本でも割に最近のことではないでしょうか? そして私は一番の要因は花粉症の流行(対策のためのマスク)にあるのではないかと考えています。*1
 花粉症対策にマスクやゴーグルが使われはじめ、それが街中や職場などで目立つようになったのは90年代になってからだったと記憶しています(少なくとも私の周囲では)。最初は違和感が相当あって、何か病気?とか聞くこともあったはずですが、もう十年、十五年して慣れてしまって、今では何か当たり前のように見えています。


 そのおかげでマスクをした人を見ても普通に思えるようになったばかりでなく、マスクが表象する意味合いが「外部の悪いものから自分を守るもの」という具合に変わっていくことになったのだと思うのです。 花粉を防ぐという機能を認識することが、いつの間にかガーディアンとしてのマスクイメージを作り上げたんじゃないかということです。


 でも一般のマスクは防御用とは考えられるものではありません。外科医とか手術のイメージのサージカルマスクですら、基本的には装着者の側からの飛沫感染の予防のためにあります。N95マスク*2とか厚労省規格のDS2マスクとか、一部のマスクだけが感染防護用のマスクとして考えられるものなのです。1枚200円も300円もするようなこういったマスクが通常用いられているわけではありませんよね。
 もちろん「しないよりしたほうがまし」レベルでは意味があるものと思いますが、自らの飛沫感染を防ぐというケースでの有効性と、外部からの感染を防御するというケースでの有効性は全く非対称で、段違いの差があるものなのです。


 とはいえ、ここ数日兵庫大阪の高校生を中心とした新型インフルエンザへの感染が確認され、あっという間に感染確認者が25人(NHKニュース)。もしかしたら数百人のオーダーでの集団感染があるかもとささやかれるようになってしまいました。
 このケースで私は少し考えを変えました。
 それは、自分が感染しているかどうかわからないままに感染を拡大させる危険性を考えたら、やっぱりマスクはしておくべきではないか、ということです。


 寄るな触るなうつすんじゃない!という意味でのマスクは誤解の部分が多いのですが、結局それをしておくことでごく初期からの感染予防、感染源としての自分への対策としては有効と考えていいんじゃまいかと思い直したんです。
 ということで明日から人中に出るときには、(安い)マスクでもかけようかなと考えています。確か5、6枚余っていたのもあったはず…。

*1:他に、SARS騒動の影響なんかもあるかもしれませんけど。

*2:国労働安全衛生研究所(NIOSH)のN95規格をクリアし認可された微粒子用マスク