結婚らくらくおまかせパック

 このたび結婚することになりました…


 っていうの時々ありますね、ブログでも。もちろん今自分がしようということではないのですが(笑)、結婚の意味として自分たちが思っていることって、それはそれで当たり前と思っているけど実は特殊なのかなあと考えさせられることがありました。
 確か土曜日のNHKアーカイブス(だったか)の中で、昭和42年(1967年)のある男性の結婚(と独立)についての番組の映像が流れていまして、ほんの40年ほど前にこういうのがあったのか!とちょっと衝撃を受けたのです。


 その男性、集団就職で九州の柳川から上京してきた人でして、中学を卒業してから地元の八百屋などで働き、その後一旗あげようと思われたのか20歳前後で都内へやってきた方です。この人がフォーカスされて番組が作られている感じでした。
 彼が働くのは「暖簾わけして独立を手助けする小売業チェーン」だそうで、新宿に本店があるその店の名前は(番組では直接言及していませんでしたが)丸の中に「正」の字がみえましたので、今なお存在する新宿MARUSHO「丸正食品チェーン」だと思われます。
 昭和40年当時、このマルショーで「五年間継続して働き」「売り場の責任者になって」「貯金が三十万円になった」人を対象に、本店が独立資金を貸して暖簾わけするという制度があったそうなんです。
 裸一貫からスーパーを立ち上げた社長に代わり、すでに当時息子の専務が仕切っているようでした。この年、専務が声をかけて「独立しないか?」と慫慂したのが五人の男性。その一人が九州の彼で、野菜売り場の責任者を任されている人でした。貯金は三十万どころか百万を超えているようで(当時のお金にすれば大変なもの)、仕入れ等商売の仕方も学んでいて、専務のお眼鏡にかなった人とのこと。遊びもせず給料もほとんど使わずに貯めていたんでしょうね。


 ここでびっくりしたのが「この時期専務は大忙し…」というナレーションとともに始まった映像でして、その独立を目指す五人の写真と履歴書を見ながら、専務がああだこうだ選んでいたのは「独立にあたって結婚させるお相手」(しかも女子従業員の中から選考)だったんです。
 女性の写真や履歴、出身や家族などを考えながら「この彼にはこの娘」「こちらにはこれが…」というように机の上でマッチングさせているじゃないですか!
 しかもその理由、「若くして独立しても従業員など雇えるはずもないので、無給の労働力として社内でも働き者の娘さんを選んで娶わせる」…というあたりには絶句です。今の常識からすれば、これはもう奴隷市場みたいなものに見えてしまいそうな感じで。本人の意思は?好みは?なんて口に出そうですが、おそらく当時この会社ではそういったことは二の次だったんでしょう。


 専務から内々に話があって、お断りも(もしかしたら)できたのでしょうけど、その年の五人は男女とも皆「ありがたい話」として結婚話を受けたみたいでして、五人が座敷に相対して座り「初めての顔合わせ」をするそのタイミングですでに「集団結納式」になっていました。専務から受け渡される結納品や目録を、五人の男性が次々に向かい合った五人の女性に差し出す風景がそこにありました。
 そして、その結納が終わってからそれぞれのペアは「初めてのデート」という具合に都内に出ていったのです!
 何じゃこれ?と思わざるを得ません。もちろん同じ社内の男女ですし、写真も見せられれば顔をあわせる機会だってあったとは思います。でも専務さんから声をかけられて、それをあっさり受け入れて、先に結納してから初めて一緒にお出かけなんて、今の基準なら非常識でしかないでしょう。


 でも彼らはまもなく「集団結婚」してました。五人の白無垢の女性が神社を歩き、五人の男性がそれを迎え、境内には五人、五人の計十人の親族がやってきていて、皆で神前式を挙げていたんです。
 その後新居への引越し映像もありましたが、これまた専務さんが選んだ家具・家財道具が新婚夫婦への贈り物として映されていました。まさに「結婚らくらくおまかせパック」みたいなものです。
 九州の彼にマッチングされたのは埼玉の越谷から(これまた)集団就職してきた女性の一人。丸顔の、明るそうな、いかにも働き者といった感じの女性でした。
 暖簾わけしてもらって新規開店し、社長に借りた開店資金を返済し終えれば、名実共に独立です…みたいなナレーションもありましたが、この方々、とにかく生きていくために結婚が必要で、それだけでいいというような感じに見えたんですね。
 相手を選り好みするとかその人が自分とあっているあっていないを考えるより、自分はどんなでも合わせられる、頑張るからどうでもいいみたいな感じ。弘法筆を選ばず…でしょうか?


 これはもう今の、自分の常識であるところの結婚の意味と、まるっきり違う異世界の話にも思えました。これがほんの40年前、実は自分も生まれていた(笑)その頃の日本にあった一つの結婚の形なんですね。
 今自分が当たり前と思っている結婚観も、もしかしたらあと40年後にはびっくりされるだけのものかもしれない…なんてちょっと思ったら、結婚についてあまり深く考えなくて良いような気にはなれました(笑)
 確かにこういう時代をおぼえている親のあたりからすれば、相手がどうのこうのと文句をつけているような息子、娘は阿呆に見えてしまうのかもしれません。それにしても大変な変化があったものです…