なぜ「願わくば」が誤用なのか

 簡単に言えばク語法というので「願う」が体言化されて「願わく」になっているからです。
 ク語法は接尾辞の「く」を活用語につけて体言化する*1もので、一番よく知られているのは「いはく」なんかじゃないでしょうか。あれは「言ふ」の未然形「言は」+「く」で、「言う(こと)には」という意味になっています。
 ただし古語辞典などの用例を見てもほとんどが万葉集から引いた例などで、平安期以前に定着した(というか平安あたりではすでに古い用法)だったもののようです。
 次に、後ろに続く「ば」ですが、古語の用法ではこれは活用語の未然形について仮定「〜ナラバ」を表し、活用語の已然形について確定「〜ノデ、〜ナラバイツモ」という意味を表す接続助詞です。
 「雨降らば」なら「雨ガ降ルナラバ」、「雨降れば」なら「雨ガ降ル(降ッタ)ノデ、雨ガ降ルトイツモ」みたいに訳されるので、現代語文法とちょっと違うということで記憶に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか? これは体言には接続しないのです。


 「願う(こと)には」という意味を表現したくて「願わく(願はく)」を持ってきたとすれば、その後に続くのは係助詞の「は」*2でなければなりません。 まあ目くじら立てるほどの誤用でもなく、むしろ「願わくば」の方をよく聞くような気もしますが、一応文法からは誤用になるということで…

*1:四段・ラ変の動詞の未然形相当形、および形容詞の未然形相当形「け」につく

*2:その語句を取り立てて提示し、文を完結させる述語にかかっていく