罪を悪んで…

 「靖国参拝 干渉すべきでない」というニュースの見出しを見て、小泉総理絡みでまた何か…と記事を読みました。NHKのニュース記事です。

この中で小泉総理大臣は、中国などが靖国神社への参拝を取り止めるよう求めていることについて、「中国からは、反省を行動で示してくれと言われるが、日本は戦後60年間、戦争への反省を行動で示してきた。戦没者に対し、どのような追悼をするのか、他国が干渉すべきではない」と述べました。その上で、小泉総理大臣は「靖国神社A級戦犯が合祀されている問題が取り上げられるが『罪を憎んで人を憎まず』というのは、中国の孔子の言葉だ。私がいつ参拝するかは適切に判断する」と述べました。


 中国などが靖国参拝に文句をつけるのは(小泉氏とは違う観点ですが)おかしいと考えており、過去の日記にも書いてあります(靖国問題の基礎知識参照)。それはそれとして、この記事でちょっと気になったのは、「『罪を憎んで人を憎まず』というのは、中国の孔子の言葉」という一節です。
 論語などは随分以前に一読したきりですが、こういう言葉があった覚えはありません。もちろん孔子の言葉としてそれ以外の出典で残るものもありますから、自分の知識の無さを少しでも補うべく検索してみました。


 検索してあたった出典は『孔叢子』。この書は秦の時代に孔子の子孫(孔鮒)によって著されたとされ、「孔子及びその一族の代々の言行録を集大成した書」と記されていました。
 その『孔叢子』の刑論に「その罪を憎んでその人を憎まず」と書かれているとか。
 もちろんその書を読んだことはなかったのですし、へぇと思っておりますと、検索でまた妙な一節が出て参ります。


 偽書『孔叢子(くぞうし)』の孔氏三世妻を出したと云ふ説が出る。


 何と、偽書があるではありませんか!そしてこれが書かれているのは森鴎外の『渋江抽斎』(その六十六)でした。(以下に全文あり http://www.geocities.jp/hgonzaemon/sibuechusai.html
 確かに孔子が没してからかなり後代(孔鮒は九世の孫とされる)の二次文献ですし、怪しさはそれなりに匂ってくる気がします*1
 おそらく小泉氏は『罪を憎んで人を憎まず』というフレーズを喋るつもりで、中国古典にそれを探させたのだと思いますが、今ひとつ確実でない情報を勇んでつかっちゃったのではないかと、そんな気もします。
 本当のところはどうなのでしょう…。

*1:偽書説を言う情報も、検索であと数件ヒットしております。その著者も孔子の子孫では無い人に比定されていたりします。私には真偽を判断することはできないので、とりあえずこれだけを