ヘリ不正輸出事件
ヤマハ発動機が無人ヘリコプターを中国に不正輸出しようとしたとされる外為法違反事件で、静岡、福岡両県警の捜査本部は24日、前日の家宅捜索で押収したヘリの性能の分析を開始した。
同社が輸出前に名古屋税関に提出した「規制に該当しない」との申告内容と、実際の性能に食い違いがないかどうかを中心に捜査している。
経済産業省は「ヤマハ発動機は中国以外にも昨年3月から11月にかけて韓国向けに11機、米国向けに1機を不正輸出した」と指摘。捜査本部は北京の航空専門会社「北京BVE創基科技有限公司」以外の企業にも無人ヘリを販売していたとみて、裏付けを進める。
調べでは、ヤマハ発動機は昨年12月21日、軍事転用が可能で法規制の対象となる高性能の無人ヘリ1機を、経産省の許可を得ないでBVE社に販売するため輸出しようとした疑い。
(共同通信) - 1月24日11時41分更新
ヤマハ側の倫理を想像すれば、それはまず「商取引が成立することは善」となるのでしょう。なにもそれは「自分だけが儲かればいいんだ」という独善的なものと考える必要はありません。ものを作ってそれを売って収入を得る、そういう普通のものづくりの現場の倫理としては当たり前に「買っていただければ幸い」となるだろうからです。そしてこの倫理の延長には、「規制が無い方が良い」とか「顧客を差別せず、できるだけ広い商圏で売れれば有り難い」というものが来るでしょう。
これに対して不正輸出を問題視する側の倫理から言えば、自国の脅威になりかねない国へそのヘリを売ることは「国の安全保障面から悪」とも言えるでしょうし、その危機感を共有する普通の人でもこの倫理を取る人はいらっしゃると思います。また仮想敵国に近い存在の国々への輸出規制だけでなく、潜在的に競争相手となる国への技術流出なども経済戦争における国の不利益とみなすことができますから、そこに規制や基準が必要だというより強いところを考える方も出てくるでしょう。
後者の倫理を優先して考える人が前者の倫理の人に「ヘリが武器になって攻めてこられればどうするんだ」と問うても、「戦争しなきゃいいじゃん」と返されると思います。その「戦争にならないように努力すれば、問題はない」という答に対しさらに「それでも攻めてくるかもしれない」と言ったとしても、おそらく危機感のありようが違うため同じ筋で話をつけることは難しいでしょう。前者の危機感は「取引ができなくなる」というところにマックスがあり、その「悪」を避けるためには最大の努力をしようという話になるからです。
一方後者の危機感は「亡国」という最悪の事態を想定していますが、それをあくまで推測であると突っぱねることが、前者の正当化の一つのあり方になっているでしょう。
実はこれ、どちらが正しいという話にはしづらいのです。絶対の倫理があるという話でないならば、異なる倫理は優劣の関係にはありません。ただ上の話はかなり単純化したもので、現在の日本で完全にどちらかの倫理に染まってしまっている人は多くないはずですから、お互いに相手を説得する(相手の中の自分との共通点を大きくしようと試みる)ことはできますし、場合によってはうまくいくかもしれません。
とりあえず法規に違反したということであれば処分が与えられるわけですが、思想・信条の自由があるわが国では、ことほど左様に国民皆が同じ方向を向くようにするというのは難しいという話なのです。
ヤマハが確信犯的に商行為を優先させたなら腹も立ちます。でも現時点でのステートメントは「ぼけ」ですから、あるいは本当に悪くないと信じて商売していただけという可能性もまだあります。その時は、私にはあまり責められませんね。罰はきっちり受けてもらいますが…。
と、ここまで書いて
ヘリはGPS完備・高性能 ヤマハ発動機、低く偽り申請
ヤマハ発動機(本社・静岡県磐田市)による無人ヘリコプター中国不正輸出未遂事件で、同社が05年12月に輸出しようとした無人ヘリは、全地球測位システム(GPS)を完備した自律式の高性能ヘリだったことが、警察当局などの調べで分かった。同社は税関手続きの際に書類上、低い性能に偽って申請しており、警察当局は01年以降に輸出した無人ヘリも高性能だったとみている。
捜査当局は、名古屋税関が先月、書類の不備から不正輸出を水際で止めた無人ヘリをコンテナから押収して仕様を検査。その結果、GPSのほか、同社が独自開発した自動運転装置が備えられており、「自動制御によって飛行安定性と操縦性を実現するシステム」と結論づけた。
この機能は「ヤマハ姿勢安定制御装置(YACS)」といい、同社への照会で製造番号からも高性能を表すことが裏付けられた。
この無人ヘリはあらかじめ飛行経路などを記憶させておけば、無線が届かなくなったとしてもGPSデータに基づいて飛行を続けるため、生物・化学兵器や偵察用など軍事目的に転用できる。
同社関係者は捜査当局の任意の聴取に対し、無人ヘリが外国為替法違反などで規制された性能を搭載していたことを認めたうえ、不正輸出先の「北京必威易創基科技有限公司(BVE)」が中国人民解放軍と深い関係があるとの認識があったことも証言したという。
同社をめぐっては01年以降、不正輸出先となったBVEに無人ヘリ9機を輸出しているが、これらも同様の機能を搭載していたとされ、輸出の際には同法に抵触しないように機能を落として申請書を提出していたという。(asahi.com)
この記事を見つけました。もし捜査当局の情報が正しいのならば、同情の余地無しかなというようにも思えてきます。悪いことという認識があって犯した行為ならば、どんなに理屈をつけてもそれは「言い訳」ですから。
でも少なくともこれだけ異なる倫理の人を転向させるには、どちらの側でも宇宙人を説得するような努力が必要ではないかと考える次第です…。