椎茸>松茸

 実はずっと以前に、戦後の市場の卸売り価格で、椎茸が松茸より高価だったというグラフを見たことがありました。椎茸のほだ木栽培の技術が確立する以前、松林が荒れずに松茸が今よりもっと採れていた頃のことです。
 それを見て以来、単に希少価値で高価な松茸を珍重するのは馬鹿みたいと思ってきました。
 どの書籍で見たのか記憶になく、そのグラフを検索でなんとか探そうとしましたが未だに見つけてはおりません。代りにいくつかヒットしたものを紹介いたしましょう。


 まぐまぐ実践!つけもの奮闘記 第119号でこんな一節がありました。

●まつたけより高かった干ししいたけ
 

 現在、高級食材として日本ではきのこの王様に例えられる「まつたけ」は1本数万円するものがありますよね。ところが昭和40年代、このまつたけよりも干ししいたけが高価だったそうです。当時は生産量が少なく貴重だった干ししいたけは、当時の市場でまつたけが¥1,590/kgなのに対し、¥2,056/kg。現代に置き換えると干ししいたけが10万円近くする!?ということになりますね。

 昭和40年代にこういう状況がちょっとでもあったということは存じませんでした。
 また、もうちょっと古くなってしまうのですが、三重県津藩政史のサイトで「三重県の松茸生産高」という記事があり、そこでも

 秋の味覚と言えば、「松茸」を思い浮かべる人が多いだろう。10月に入ると、国産松茸も市場に出る。ただ、外国産の松茸はともかく、国産の松茸は値段が高く、そうたやすく口に入らないのが実情であろう。
 ところが、先日、1914(大正3)年発行の『三重県林業要覧』の中から松茸の値段が椎茸に比べて随分安いというデータを発見し、いささか驚いた。それは椎茸と松茸の県内生産量と価額で、1911(明治44)年の数値は「椎茸四九、一〇一斤 三八、三〇八円、松茸二二一、七四八斤、二〇、三九一円」と見られる。これを1㎏単価に換算すると、椎茸1円30銭に対して松茸はわずか15銭で10分の1程度である。当時は椎茸栽培が技術的に未熟で椎茸の生産が少なく、高価であったのだろうが、それにしても松茸の価額が非常に安い。ちなみに、この年の三重県平均の米価が1俵(60㎏)あたり6円72銭で、米1升(1・5㎏)よりも松茸1㎏の方が低価であった。(後略)
(県史編さんグループ 吉村利男)

 という記録が紹介されています。


 他者の欲望が自分の欲望を作る、とはよく言ったもので、皆が珍重を始めればものの価値を高く思ってしまうのは世の常でしょう。そこから全く無縁で生きていけるとも思えません。
 ですがちょうど私がそうであったように、何かのはずみでそういう欲望の縛りから抜けてしまうということも案外あるような気もいたします。上記引用がちょっとでも参考になれば幸い。


 人並みの幸せを求めてしまうのも人情ではありますが、そればかりではないということも、どこか頭の中に入れて生きていくのはいいことではないかとこの頃思っています。ただ、これが妙な具合に自己弁護になってしまっているのだけは頭の痛いところですが(笑)