9月11日の記事を転載

アンパンマンというヒーロー像

 aozora21さんの[はてなD言及]アンパンマンはキモイですかという記事経由で、usauraraさんの[穴の外]新しい朝がきたのに2 〜アンパンマンは何故キモいのか?へ。
 aozoraさんも引かれたusauraraさんの一つの着眼点はこちら

これらアンパンマンの特徴はどれも不気味だ。


こどもなのかおとななのか、どっちつかずな外見や行動。
その話しぶりは完全に「駐在さん」であるし。
「変身」がなくて日々が地続きなことも不気味だ。
身体はへなちょこで、頭も悪いみたいだ。
だって毎回同じ相手と戦うのが目に見えてるのに
完全打倒する作戦を練るでもなく、常に対症療法的。
「やられてからやりかえす」だけなのだ。

(強調は引用者)

 これをusauraraさんは「ぱっとしなさ=愚鈍さ」と捉えられておられます。そういう見方も一つあるのかなと思いましたが、なんといっても上記記述からすぐ想起されるそのヒーロー像は、
 専守防衛という縛りの下での最も「正しい」ヒーロー
 ということなのではないでしょうか。
 毎回同じ相手と戦うことになるとはいえ、バイキンマンは「同じ世界の仲間」なのです。テレビ版ではないアンパンマンワールドでは仲良しで、バイキンマンは悪役ではないというご指摘もあります(⇒azumyさんの記事)。
 テレビ版の世界でも、毎回バイキンマンが何か事を起こすまでは彼は仲間であり、それを先に叩くというのはタブーになっているのではないかと思います。
 これはこの話を子供たちの世界に持ち込んだ時にはっきりわかるのですが、誰かやんちゃな男の子がいて、彼が始終他の人に迷惑を掛けているとします。その彼を「完全打倒」したり、本質から悪だと決めて仲間の範疇から外してしまったらどうでしょう?それはいじめになってしまうんじゃないかと思うのです。


 アンパンマンは「正しさ」の表現方法が拙いのではなく、むしろはっきり専守防衛的正しさ、性善説の世界における正しさを体現した「ぱっとしない=ぬるい」ヒーローなんじゃないかと…。


 以前に、ウルトラマンなどのヒーローの物語は「アメリカ軍に守ってもらう日本」の物語であるという論考を読んだことがあります。(佐藤健志ウルトラマンは、なぜ人類を守るのか? 〈ウルトラマンの甘えと矛盾〉」、『映画宝島 怪獣学入門!』JICC出版、1992、所収)

 端的にいって、戦後民主主義ナショナリズムのあり方について深刻な混乱を抱えている理念なのだ。というのも、それは一方では敗戦の痛手から復興するために、それまでの軍国主義に代わって日本国民がめざすべき独自の方向(経済的繁栄と「文化国家」化)を示すというナショナリスティックな理念でありながら、他方そのような国民を統合する枠としての「国家」を全否定するという国際主義的な側面も持った、きわめて矛盾した理念なのである。
 この矛盾がもっとも端的に顕在化するのは、言うまでもなく安全保障に関してである。ナショナリスティックな理念としての戦後民主主義は、当然日本の安全をどう守るのかという問題を考慮せざるをえなくなる。しかし「国家」を全否定した理念でもある戦後民主主義は、日本政府が武力を行使して自国を守るということをなかなか容認することができないのだ。しかしこれでは、国の存立そのものが危うくなってしまう。そしてこの矛盾を何とか糊塗しようとすれば、やはり博愛主義的国際主義を導入するしかないのである。

 という感じで論じられ、ウルトラマンなどのような「博愛主義者的な第三者への甘え」は、安保体制下の日本の態度を正当化できるものであった云々ということも言われていたんですね。


 これを読んでいたから、アンパンマン専守防衛のヒーローという考えが浮かんできたのかもしれません。
 もし、ウルトラマンが日本を(地球を)守ってくれなくなったとしても、私たちが心置きなく正義を主張できる戦いの形は「やられたらやりかえす」という最低限のところでの専守防衛の形での戦いになってしまうんじゃないかと思います。話してわからない者はいない。本質的に悪といった隣人はいない。そういう態度が「正しい」とされる世界では、このぬるめのアンパンマンが結局は最も正しいヒーロー像になるのではないかと…。

同日のコメント欄を転記

usaurara 『はじめまして^^ 言及有難うございます。
uumin3さんの専守防衛説、なるほど〜と思います。日本のヒーローモノの精神性が概ねそうだという説は、そのまま日本の男性の男性性との関連にまで繋げて語ると面白そうだなーとか(笑)

で、アンパンマンネタは私、マルコさんに振られてなんとなく「ネタ的」に書いたのでかなり調子に乗って書きました(笑)
なのでまあ、一方でuumin3さんに近い感覚もあったのですがそれはあえて書かなかったんです。(というのはやなせたかしキリスト教者でその世界観の具現なのだというのを耳にはしていましたので。)

ここまで盛り上げていただけるとは思わなかったもんで、焦ってます・・・(汗
で、昨日はてな内での過去ログあたってみますと、「愚仮面」さんが書かれたエントリーにやなせ氏の心境が詳細に綴られていましたので自ブログにリンクしておきます。よかったら読んでみてくださいね。
私はそれを読んで、アンパンマンの世界は「混沌」なんだ〜と思い、地べたにへたり込んでる感じなんです(笑)』(2007/09/11 09:54)
uumin3 『どもです。新しい方の記事も読ませていただきました。
あの出口顯さんの新書はたまたま持っておりました。愚仮面さんの文も、何か読んだ覚えがあるような…。ちょっと探したら他でもアンパンマンで盛り上がりがあるようですし、面白い記事をよませていただいてありがとうございます。確かにまだ含みはあるように思われますね。
あまり考えすぎると書けませんから(笑)思った分だけだしていただいて、それが良かったです。私もそうです。思い付きをとりあえず書いてみたという具合です。今日は妙に忙しいので、とりあえずこれをお返事に…』(2007/09/11 12:29)
antonian 『引越が着々と進んでおられますね。
わたくしも14日にプチ引越です(しばらく出稼ぎ業務で東京行き)
usauraraさんのエントリと関連エントリ面白かったです。
なんというかこのぬるめのヒーローは遠藤周作のイエス像のようですなぁ。苛々する人が出てきてもおかしくない。遠藤のイエス像が批判されるように。』(2007/09/11 13:57)
uumin3 『今日は忙しかった留めに不動産屋で契約を済ませました。antonianさんもちょっと動かれるのですね。後でそちらの日記にも書かせていただきますが、いいものが見つかって…
さてantonianさんのご指摘もなるほど、と思ったわけですが、シンクロニシティーでもないのでしょうが、上記usauraraさんもご紹介の出口さんの新書にも自らの血を聖杯に注ぐキリストの図像が挿絵で入って、アンパンマンをキリストになぞらえるような記述がちょっとありました。どっか深いところで、やなせ氏の信仰にも関わるのでしょうが、両者は結びついているのかもしれません。
もちろんusauraraさんが書かれたようにそれは「賢い」ヒーローではないのですが、かえってそこに深い倫理を見ることも可能かなとちょっと私にも思えたのでした。』(2007/09/11 18:29)