「ぼったくり」の語源

 ⇒ぼったくり被害夫妻よ、再訪を 伊観光相「政府が費用」 - 国際asahi.com
 あの「有名レストラン」での事件に対して、イタリアの観光相が動いたという記事。ブクマコメントid:ysdk1さんが

 ysdk1 ニュース 「ぼったくり」ってどこの方言?

 と、ぼそっとおっしゃっていました。
 確かに新聞記事の表題にも使われるほど普通に使われる言葉にはなっているものの、そんなに昔からあった言葉にも思えないという感じ。どこかの方言か、何かの符牒か、そういったものが後からやってきて一般化したというのもありそうです。
 方言だとすれば第一感は関西方言。「ぼる」「ぼられる」というのを私が初めて聞いたのは関西だったような気も。もしそうなら、むしろ古語の方で何か語源がありそうだという感じもしました。


 それで調べてみました。結論として、ちょっと語源に関しては錯綜している気配がします。
 まずこの「ぼったくり」という言葉、広辞苑の第二版には記載されていませんでした。
 確かに昔からあった言葉ではないようです。傍証としてはかなり強いでしょう。


 「―くり」という語尾は「―くる」という動詞の連用形が体言化(名詞化)されたものであろうと推測はつきます。「ぼったくる」という動詞も広辞苑にはありませんでしたが、似たような言葉を連想して調べると…

ぶったくる【打手繰る】
1 無理にひっぱって奪い取る。ふんだくる。ひったくる。
2 価格以上の値をむさぼる。ぼる

 いきなりこの語がありました。この二つ目の意味から発音が変化して「ぼったくる」という言葉が出たのではと思わせる内容です。そして、

ぶったくり【打手繰り】
1 ぶったくること
2 特に、他人のものを強奪すること。また、盗賊。

 という体言が派生して記載されており、用例としては歌舞伎の『小袖曾我』から、
 「まづゆすり、かたり、ぶったくり、俗に言やあ盗人さ」
 というものが引かれていました。「ぶったくり」の方はそれなりに古い語にも思われます。


 これで話が仕舞いになればよかったのですが、ついでに頭の中にあった(そして上にも出てきた)「ぼる」を引いてみますと…

ぼる米騒動の際の暴利取締令に出た語で「暴利」を活用させたもの)
 法外な代価・賃銭をむさぼる。不当な利益を占める。

 というように、これまたありそうな語源話が記載されています。歴史的な事件に基づいているというわけです。


 手元の辞書を引いただけできちんと跡づけたわけではありませんが、おそらく次のような言葉の変遷があったのではないでしょうか?


 ぶったくる
    ↓
 ぶったくり
    ↓
 (※米騒動。「ぼる」の誕生)
    ↓
 ぼる + ぶったくる(り) (類似の意味を持つ語の混淆)
    ↓
 (ぼったくる)
    ↓
 ぼったくり


 ちょっと暇でしたので(笑)憶測です。
 他の辞典類、そして広辞苑の新しい版ではどうなっているのか興味がちょっと湧いています。


※もちろん上記「ぼる」の起源話がただの俗説で、「むさぼる」から「ぼる」が由来したり、「欲(ほ)る」から「ぼる」が由来したなどの線もあり得ると思います。古語辞典をさらっと見た限りでは、それらしい元の語はわかりませんでしたけれど…